第二十六話 ほな行こか
姉が仕事に着ている服装に似ているので、彼らが何の職業に就いているのかはすぐに分かった。周平でなくても、きっと分かるだろうが。
「先程一緒におられた女性、貴方の連れの方ですよね?」
一人の警察官が面倒くさそうに言った。大きな腹をしている。ふと思い出したのは、警察署にいる池脇だ。
彼らがゆいのことを言っていることは一目瞭然である。彼らは、ゆいがいなくなったことを見計らって周平に声をかけてきたのだろう。
「え、何でですか?」
ここで、はいそうですと答えると、何故彼らがその質問をしてきたのか聞けずに終わってしまう。悪かれ良かれ、理由は聞いておくべきである。
もう一人の細い体躯をしている警察官は、腹の出ている方に小声で何かを話す。理由を言わないと、彼はきっと何も言わない――大方、そんなことだ。
見た限り、腹の出ている方が上司だろうか。細い方はまだ新人だろうか。ピンと伸びた背筋は、仕事への意欲が感じられる。それに比べて、腹の出ている方はどうだろう。じわりと滲み出てくる汗をタオルで拭き、集中していないのか視線があちらこちらへ向く。
池脇といい、熊本といい、そして彼といい、――太っている人が多い。
太っている方はおそらく新人の言葉に、はいはい、と言った具合に手を振って、再び周平を見る。
「えーっと…………昨夜、ここの食料品売り場で万引きがあったのですが、ご存知ですか?」
「いや、知りません」
「店員さんが万引きした人を見ていたんですが、その人物像が、彼女に似ていたんで、少し事情を聞こうと思いましてね。……まあ別に、貴方に聞いても良いんですが。彼女、昨夜何していたか知っていますか?」
昨日は一日、ゆいを見ていない。いくら電話してもゆいは出なかったから。そうだ、――どうしてゆいは電話に出なかったのだろう。詳しい理由を聞いていなかった。戻ってきてから聞いてみよう。
「あー……悪いですけど、あの人俺の知り合いじゃないんです。何ね駅で、おにぃさん一緒にゲームして、あたしが勝ったら昼ごはん奢ってって逆ナンしてきた奴なんですよ。ちなみにこれから、俺が負けたんで飯奢りに行くところなんです。こんな田舎でも、ナンパってあるんすねぇ、しかも、女からとか」
楽しそうに言う周平を見て、警察官二人は顔を合わせる。
「そうですか、分かりました。楽しい時間中失礼しました」
「いや、ええですよ」
一礼をして、二人は去っていった。
嘘をついたのは、ばれなかっただろうか。いくら警察官でも、せっかく話してくれた一般人の言葉を一切信じずに問い詰めることはしないはずだ。
今ので、彼らは周平を疑っただろうか。判定は微妙だ。
周平はスマホを取り出すと、ゆいに電話をした。
「もしもし?」
『何ですか、トイレ中の女性だと分かっていて電話をしてくるだなんて』
「いや、何となく?」
『何となくでかけてきたんなら切りますよ。というか、もう周平さんの近くにいますし』
電話からの声と、耳に直接入り込んできた声が重なる。顔を右に向けると、スマホを耳に当てながらこちらへ歩んでくるゆいの姿があった。
電話を切り、おかえりんご、と言うが、ゆいは何も言わない。
「これからさ、昼飯でも食おうかと思っとんやけど、何が食べたいとかある?」
「特にないです。というか、いりません」
「何でや? もう一時やし、腹減っとるやろ」
「調子にのらないでください。一緒にゲームしただけで、お、仲が修復したんとちゃう? とか思っているんでしょう、どうせ」
「そんなんちゃうわ。ただ俺が腹減ったから、なんか食べたいって思っただけや。こないだな、クマさんに喫茶店に連れてってもらったんや。そこ、行かへん?」万が一、先ほどの警察官に怪しまれないために――だなんてこと、言えるはず無い。
「腹が減ってない訳じゃないやろ? それとも、自分で昼食を用意してあるとかか?」
その言葉はきっと、警察官から話を聞いたからこそ出てきたのだろう。彼らは、ゆいが判定は万引き犯だと言いたいのだ。昨日のゆいの状態を全くと言っていいほど知らない周平に、それを根本から否定することはできない。だからこそ、疑いたくないのに疑ってしまう。まさか、ゆいが――?
ゆいは首を傾けると、ありませんけど、と目を逸らした。
――きっと、俺とランチに行くのが恥ずかしいだけなのだ。周平は、そう思った。
周平は立ち上がると、ゆいの腕を掴んで歩き出す。
「ほな行こか。俺もまだ何にも食べたことないから、味の保証はできひんけどな」




