第二十五話 すみません、
目的の駅に到着し、元の街に戻ってきた。あと少しサユリという名前の人物はいたのだが、どれも遠くに住んでいるので、おそらくもう行くことはないだろう。それよりも、周平はこれからゲームセンターに行けることを楽しみにしている。
帰宅中の電車内でゆいが周平を拒否し続けていた理由を知り、改めて仲直りするためにゲームセンターに行こうと誘ったところ、オッケーが出たのだ。半分諦めていたので、ゆいが頷いてくれたときは驚いた。
駅を出て、小道を通ってゲームセンターのある店へ向かう。
「そういえば初めて会った日の夕方、ここですれ違いましたよね」
顎をあげながら思い出すと、確かにここですれ違った覚えがある。丁度夕方の涼しい風が吹いていて、ここが影になっていた。
「あー、そういえばそんなことあったなぁ」
「あの時、周平さんは私にストーキングしていたけれど、見失ったようでしたね」
「おん、その通りや。美味しそうなケーキを見つけたからねぇちゃんに買って帰ったろか悩んどったら、いつの間にか分からんようになってしもて。テキトーに歩いとったときに、ゆいを見つけたんや」
「ストーカーとしては、あるまじき行為ですね。ケーキごときに目を奪われてしまうだなんて」
すると周平は、目の色を変えたようにゆいを見て、肩を二回叩く。以前のスキンシップではなく、ゆいに話を聞いてもらいたいから叩いたようだ。おそらく、興奮している。
「言っとくけどなぁ、俺が見とれたケーキはただのケーキちゃうでな。北海道産のクリームと栃木県産のイチゴを贅沢に使ったまるまよ屋の絶品ショートケーキ! 一日五十個限定? いやいや、店主のやっさんが気に入ったものしか売ることができひんから、いつできて販売されるか予測不能の、まさに気まぐれショートケーキ! 食べたら絶対虜になること間違いなしやで!」
どや、今度一緒に食べるか、と目をギラギラと輝かせて語る。いつになく見たことの無い周平に少し戸惑う。
まるまよ屋なんて店、ゆいは聞いたことがないので、この辺りにしかない個人営業の店なのだろう。ここまで熱く語るなら、きっと美味しいのだ。ゆいはケーキがあまり好きではないが、それは是非食べてみたいと思った。
店に入ってすぐの階段を上ると、ゲームセンターに繋がっている。平日だから子供は少なく、むしろ大人の方が多い。仕事の無い若者や老人がいるなかに金髪の青年と茶髪のJKが入るのは、さほど違和感を感じない。良いのか悪いのやら。
だが人が少ないお陰で、ゲーム待ちをしなくてもすみそうだ。適当に中を歩き、どれをするか考える。懐かしさを感じるカードゲーム機は、今でも残っている。休日だったら、列ができていたのだろうか。最近の子供の楽しみが分からないので、どうとも言えない。
「懐かしいですね、これ」
そう言ってゆいが指したのは、やはりカードゲーム機だった。だが、同じカードゲーム機でもゆいが指したのは女の子用のものだ。
「ほんまやんなぁ。ゆいの時は、どんなんやったっけ?」
「女の子二人の衣装を決めて、ダンスをするやつです」
「あー、そんなんあったなぁ。俺んときは、虫で戦っとったで」
「従兄弟がよくやってました、それ。当時の私には何が楽しいのか分かりませんでしたけど」
「俺もよぉ分からんかったわ。とりあえず、みんながやってるから俺もやる、みたいな感じやったからなぁ」
さすがにこの年でカードゲームをするわけにもいかないので、しばらく話してからそこから離れた。それに、今のカードゲーム機は操作方法が難しそうだ。
「そういえば、小さい頃それをしたくて並んでいたとき、一人の女の子に話しかけられたことがありました」
「そうなん?」
「はい、名前は忘れましたが……。たしかその子、家が、――……」
ゆいの言葉を遮るように、ゲーム機から音が鳴り出した。とある若者が音ゲーでフルコンボを達成したようだ。
「すっげ、クレイジーモードでフルコンボて。やり込んでるやつは違うなぁ」
そちらを見たあと、すぐにゆいを見る。「で、あれ? 何やったっけ? 聞こえへんかったわ」
「えーっと……あ、話しかけてきた子の話でしたね。その子、家がお金持ちだったらしいんです」
「へぇー、その年から金持ちやって自慢するとか、今の姿が気になるわ」
その後、空いた音ゲーを二人ですることにした。共に久し振りで上手くできるか心配そうだったが、周平はその割りにやる気が出ていた。だがやはり体が覚えていたようで、難なくこなしていく。
さすがにクレイジーモードは早くて追い付けないが、ハードモードまでなら楽しそうにしていた。
数時間前の二人とは思えないほど、仲は確かに修復している。ゲームをしたのが良かったのか、二人の相性が良かったのか。
その他メダルゲームやクレーンゲームをして、楽しい時間を過ごした。久しぶりのせいかぐったりと体が重いが、心はまだワクワクしている。
「ちょっと休憩しよか。疲れるとか、もう年かなぁ」
近くの茶色の椅子に腰かける。ゆいはトイレに行くと言って、駆け足で向かった。
ふと時計を見ると、一時を回っていた。何と二時間も遊んでいたことになる。いくら久しぶりとは言え、遊びすぎてしまった。ゆいが帰ってきたら昼食でも食べに行こうかと考える。
(マリッジブルーで軽く済ませるか? あ、そうや、前にクマさんと行った織江はんとこ行ってみるか?)
考えているとふと、目の前に二人の男性が立ち塞がった。青色のシャツに黒いズボン、上までしっかりとネクタイをしている。
「すみません、少し宜しいですか?」




