第二十四話 優しいやっちゃなぁ
目的の駅につき、ゆいの手を引いて降車する。涙は止まったようだが、あれからしばらく何も話していない。
周平からすれば、あれは仲直りしたも同然の展開である。
ゆいのことをツンデレだと思っている、いや確信している周平からすれば、大嫌いは嫌いじゃない、という意味になる。周平がポジティブなのかゆいがツンデレなのか、どちらでも互いに突っ込むので、問題はないだろう。
「まずは……『ナカムラサユリ』の家に行くで」
「……サユリの名字はナカムラではないです。フジタサユリはいなかったんですか?」
周平はスマホの画面を見て確認する。
「ねぇちゃんが取って帰ってきてくれたやつにはないなぁ。実家の両親が出しとったら、そこの警察署に出しとるやろうから、見つけるんはむずいやろなぁ。そういや、サユリの実家はどこにあるんや? それも知らんのか?」
ゆいは頷く。電話さえも変わってもらえない状況なら、知らなくても不思議ではない。
ふと、周平の脳内に疑問が浮かぶ。
「あら? じゃあ、何でゆいはここにサユリがおるって分かったんや?」
そう言ったら、ゆいの表情が少し曇り、俯いてしまった。何気なく聞いたのだが、そうではないようだ。上手く話せていたと思ったのだが、振り出しに戻ってしまったようだ。
だが、ゆいが黙ったことによってその疑問が深まった。幼い頃だったため引っ越し先を知らず、電話にさえ代わってもらえない。ゆいが連絡先を知らないのなら、きっと母に聞いても教えてはくれないだろうというくらいは想像できる。ゆいが黙っているということは、母から教えてもらったわけではなさそうだ。もしそうだったら、ゆいはここで口をつぐむことはしなかったはずだ。
だが、ここで攻めると、少し戻ってきたであろう雰囲気が台無しになってしまいそうだ。ここは、黙っているのが妥当か。
一件目近くの駅に到着し、早速その家に向かう。駅の北口を出てしばらく右に進み、三つ目の横断歩道をを渡ってそのまま真っ直ぐ歩き、右に曲がる。おそらくこの辺りだ。
初めて来るところなので、油断すれば迷子になってしまいそうだ。
「ゆい、ナカムラの表札が立っとるところ探してくれ。たぶんこの辺りにあるはずや」
二人で手分けして、一件ずつ見て回る。両側にほとんどぴったりに家が並び、どれも新しい。やはり、進歩していく街は違う。周平の住む街とは大違いだ。
「周平さん、ありました」
その表札があったのは、左側の家だった。煉瓦が積まれたような壁をしており、一台車が止まっている。誰かがいることは確かだろう。
サユリの家は家を建てるので引っ越したと考えると、家が新築なのは分かる。十数年建っているが、この家は果たしてそうだろうか。
インターホンを押し、誰かが出てくるのを待つ。しばらく出てこず、誰もいないのかと思っていたとき、扉が開いた。高齢者の男だった。
「すんません。今、とあるサユリさんを捜しとんですけど、ここにサユリさんがおるって聞いて来たんです」
「サユリは確かにいるが、今行方不明でなぁ。帰って来てないんじゃ」
「彼女の年齢を聞いても良いですか?」そう言ったのはゆいだった。
「今年で七十八じゃ。全く、どこかで死んでるんじゃろかなぁ」
名前はサユリだったが、年齢が大幅に異なった。一件目から当たるとは思っていないのだが、やはり外れると脱力する。
今度は駅の南口を出て、すぐの所。大きな屋敷で、瓦で屋根が覆われている。古くからある家なのだろう。
「サユリ? ああ、それなら昨晩帰ってきたの。友達の家に泊まっていたらしくね。探しているのは、九歳の子で合ってるの?」
またまた年齢が外れていた。同じ名前の人は家も、年齢まで重なることはあまり無いようだ。となると、三件目もあまり期待できない。
「貴方、娘がいなくなって辛い思いをしているのに、よくもまあのこのこも来れたものね。最近の若者には礼儀ってものがないわ。そんな子達に、何も教えることはないわ」
そう言って、扉を閉められてしまった。今出てきたのはおそらく行方不明のサユリの母だろう。ゆいが知るサユリの母ではなかったので、ここも違うだろう。
「とりあえず、この辺におるサユリはこれで終わりや。あとはもっと遠くの奴やから、行くんは難しそうやなぁ」
電車に揺られながら言ったが、ゆいは軽く頷くだけで何も言わない。
時刻は十一時前。昼からはまたサユリを片っ端に捜すことになりそうだが、きっと見つからないだろう。これまで捜しても見つからなかったんだから。
「……あの、周平さん」
俯いたままのゆいが言った。なんや、やっと口を開いたかツンデレめ、と言いたかったところを何とか口を閉じる。そう言えば雰囲気が良くなると思うのだが、きっと今は言うときではない。
「何や?」
「……あの、周平さんが聞いてきたことについてなんですけど」
一瞬なんのことかと思ったが、きっと何故ゆいはサユリがここにいると思ったのか、についてだろう。
「小さい頃、サユリは美容師になりたいって言っていたんです。それで、よく私の頭とかといじってきて。その時に、ある専門学校に行きたいって言って、それが、あの街にある専門学校なんです」
周平が暮らす街には、確かに専門学校がある。時々CMもやっているし、それなりに有名所だ。
「もし夢が変わっていなかったら、きっとここに住んでいるんじゃないかと思ったんです。あまりにも不確実な情報なので、誰かに手伝ってもらうのは申し訳ないと思って……。だから、周平さんに手伝ってもらうことを拒否していたんです」
なるほど、と頷く。これで、ゆいが周平を拒んでいた理由がわかった。周平が嫌いなのではなかったのだ。手伝ってもらうにはまだここに住んでいるという確証がなかった。無駄骨にならないために、ゆいが優しさで周平の協力を拒否していたのだ。
その話に周平は安心し、良かったわぁ、と言って喜んだ。
「優しいやっちゃなぁ、ゆいは。そうなんやったら、はよに言ってくれたら良かったのに」




