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第二十二話 大嫌いです

 相変わらず、ゆいからの折り返しの電話は来ていない。一日以上連絡なしで、ゆいは一体何をしているのだろうか。全く見当がつかない。


 今日は、この辺りにあるホテルを捜すことにする。ゆいのことだ、周平をうざがって、止まるホテルをわざわざ変えたのかもしれない。少し離れていても、歩ける距離ならゆいならやりそうだ。


 ふと、ゆいの所持金はいくらなのかという疑問が生じた。高校生でいくらバイトをしていても、何ヵ月何年も泊まれるほどのお金は手に入らないだろう。節約のために一日二食にしても、泊まってまで捜しに来たんだから、すぐに諦めて帰るはずがない。


 知らないことや不思議なことが多すぎる。会ったばかりなのだからしょうがないのだが、気になってしまう。


(ほんまは人間やなかったり……って、んなアホなことあるわけないか)

 内心で一人突っ込みをして、そそくさとホテルへ向かう。


「……ん?」


 もうすぐ国道に出ようとしているとき、左から右へと、キャップを被った茶髪の女性が通っていった。少し小柄で、年齢は十代後半から二十代前半と見た。


 可能性として、ゆいがぴったり当てはまる。周平には、もうゆいにしか見えなかった。


 一目散に駆け出すと、

「ゆいー!」

と叫んだ。キャップを被った女性は周平を見ると、頬をひきつらせた。手を伸ばしてきた周平を華麗に避け、駆けて行く。急いで追いかける。追い付けない速さではない。


「なあ! ゆいなんやろ!?」

 追いかける人と追いかけられる人を見る人々は不思議そうな顔をして見るが、追いかける人を止めようとする者はいない。


 何度も名前を叫びながら追いかけるが、止まる気配はない。体力が無くなってきたのか、少しスピードが落ちてきた。そこをついて、周平はより足を早く動かす。


「止まれや! ゆい!」

 伸ばした手は、前を走る腕を掴み、そのまま力を込めて引いた。バランスを崩し尻餅をつこうする彼女の膝裏に手を回し、勢いのまま持ち上げた。


「うひゃあ!」

「じっとしとれ!」


 悲鳴をあげた彼女なんて無視して、そのまま走り去る。周囲の人々は、周平のあまりの手際のよさに、心を打たれたに違いない。





 走り続けて着いたのは、周平の家だった。


 つい先程出た家にまさか戻ってくるなんて、周平も思わなかっただろう。だが、ここでなければ、彼女が逃げてしまうと思ったのだ。


 周平は、抱える彼女が被っているキャップに手を伸ばす。彼女は嫌がるが、そこを無理矢理はずす。


 まちがいなく、ゆいだった。


 つむじ辺りが黒く、怒っているのか不安に思っているのか、そんな表情で見つめてくる。


「……何なんですか」

「何なんって何や」


 睨んできたゆいを、睨み返す。

 どうして突然消えたのか、聞かなければ気が済まない。二人は他人ではあるが、知り合ってしまった以上、最後まで付き添っていたい。そこには、明らかに私情が混ざっている。知り合いに似ていた、それだけで、手を貸したくなる。まるで、“彼女”が困っているように思ったから。


 だからと言っても、やはり二人は他人だ。いつ消えてもおかしくないし、裏切られても可笑しくない。それでも、助けたいと思ったのは、周平の心が、そう言ったからだ。


 しばらく睨み合っていたが、周平はため息をつくと、ゆいを下ろした。逃げ出してしまうかもしれないが、ゆいがそうしたいならそうすればいい。また追いかければよい話なのだから。


「……何で急におらんようになったん?」


 ゆいは周平の手からキャップを奪う。何度も被り直して、一向に口を開こうとしない。言いたくないのか、そうやりながら考えているのか。


「…………別に、理由はありません」

「そんなわけないやろ。ゆいはそんな事せん」

「周平さんには分かりませんよ。どうしてそんな事しないって分かるんですか。知り合ってまだそんなに経っていないのに」

「言えるからや。ゆいの事くらい、顔見ただけで分かるわ」

「いい加減なこと言わないでくださいよ」


 ゆいの声が、ぐっと大きくなった。

「周平さんの事、私は大嫌いです」


 突然の言葉に、周平は口を閉じた。

「何なんですか。私の前からさっさと消えてくださいよ」


 今までとは違う、鋭い暴言。ボケているのではない。心の底から、そう思っていることなのだろう。ゆいは歯を噛み締め、周平が何か言うのを待っている。『分かった』――その言葉を待っているに違いない。


「照れんなや」


 周平は、そう言った。

「嘘を言って何が楽しい? 確かに、相手を騙すんは楽しいこともあるけど、今のゆいはちゃうやろ? ほんまの事言えや、待っとったるから」


 言いながら、ゆいの頭を撫でようかと思ったが、止めておいた。きっと、ゆいは腕を振り払って、「触らないでくださいよ。私の言っている意味分かってますか?」と怒鳴るだろう。険悪な雰囲気は留まらなくなる。


「ツンデレの相手は大変やわ。俺も、ゆいも」


 ゆいは黙りこんでしまった。俯いて、顔を見せないようにしている。

 周平はため息をつくと、ゆいの腕を掴んで家に入ろうと引っ張った。だが、ゆいは動かない。家には入りたくない、と言うのだ。分かった、と頷くと、周平は方向を変えて、駅の方へと歩き出した。するとゆいは、戸惑いながらも引っ張られるがままについていく。


「じゃあ、捜しにいこか」

「……誰を?」

「あぁ? サユリに決まっとるやんけ」


 アホなんか? と言いながら振り向き、顔を少し覗き込みながら軽くデコピンをする。

 その時、ゆいの瞳が潤んでいたのが見えた。

 周平は前を向くと、何も語らず、駅へと歩を進める。

投稿遅くなってしまいごめんなさい。

夏休み中盤に入り、きっといつの間にか夏休みは終わってしまうことでしょう……(泣)


これからも少しずつの投稿となります。ご了承下さい。


代わりとして、ちょくちょく短編を投稿しようと考えています。よろしければ、足を運んでいただけると嬉しいです。

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