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第二十一話 貴方は君じゃない

「別に」


 夏実は、素っ気なく返した。

 周平は、何故正義感の強い姉が、罪を犯すようなことをしてまで手を差し出してくれるのかが分からない。正義感が強いと言っても甘いところもあるが、今回のことに、夏実には不利益しかない。弟のためであって、自分のためではない。だから、余計分からない。


「絶対に理由があるとか思わん方がええで。そういう気分やったとしか言えへん時もあるから」

 重い言葉だが、夏実は笑っている。

「あたしに心が無いわけちゃうから、時には助けたなるんや。……ほら、な。ゆいちゃん、あの子に似とるし」


 周平はゆっくりと頷いた。やはり、彼女を知っている者は、誰でもそう思うのか。


「なんや周平。今日、いつもとちゃうやん。熱でもあるんか? そうや朝さ、ゆいちゃんが電話にでぇへんって言っとったやん。あれからホテルに行ったんやろ? どやった、案外ぴんぴんしとったやろ?」


 午前のことを思い出す。喫茶店ジュテームでしばらく話したあと、ゆいが泊まっているホテルに向かった。だが、すでにゆいは退室しており、その姿はなかった。その全てをありのままに伝えると、夏実の心に、ゆいへの疑念を抱かせることになるのは、安易に予想がつく。わざわざ捜索届けを撮って来てくれた夏実に、どうしても伝えられなかった。


 だから、

「おん、おったで。昨日遅ぉまで起きとったらしくて、ゆっくり寝とったらしいわ」

と、嘘を言った。こんなことをするのは、夏実が手を貸してくれたことが無駄だったと思われたくない、と夏実の悪の善意を否定しないためである。だが、心のどこかで、ゆいの顔が浮かんでいた。目の前に夏実がいるのに、何故。



 夕食を終え、皿を洗っている間、夏実は溜まっているドラマを見始めた。先ほど、風呂に入りながら歌っていた歌が主題かになっているドラマだ。


《届かない君を捜していた どこにもいないのに

 いつか届くことを信じて 今日もここにいるんだ》


 そんな歌詞に、心臓がなにかを思い出して跳ねた。


《貴方は君じゃない だから どうでもいいんだ

 だけど 僕は貴方を捨てられなかった》


 そんな歌詞に、心が焼かれたように痛くなった。

 そして、それ以上聞いていられなくなった周平は、洗面所に入った。目の前の鏡に写る自分の頬は、赤くなっていた。





 少し開いているカーテンから、朝日が射し込む。閉めきらずに寝てしまったのだろう。夏が近づくにつれて、太陽が昇るのが早くなる。そのため、自然と目が覚めてしまうのだが、リビングで寝落ちしたであろう夏実はまだ微かに寝音をたてている。


 昨晩も何度か電話を掛けてみたのだが、ゆいは出なかった。電源をきっているのか、分かっているが出ないのか。不在着信を何度も残しているのに、それに気付かないなんてことは無いだろう。どちらかしかない。


 眠っている夏実を起こし、朝食を食べるよう促す。

「布団で寝ぇへんかったん?」

「歩くん面倒になって……てか、あんまり覚えてへん」

 周平はドラマを見る夏実をリビングに置いて、先に自室へ戻った。机にある空き缶を見るに、いつもより多めに飲んでいる。自分がいるといないの違いだけで、酒の進む量が異なるとは、これからは寝るまでいるべきか、と学ぶ。


「あー、仕事行くんだるいわぁ。周平、代わりに行ってよ」

「嫌やで。今日もやらんなんことあるし」

 すると夏実は察したのか、パンを口に詰め込むと、

「今日もゆいちゃんと人捜しするんか」

と言った。その言葉に周平はつい、え、と聞き返してしまった。


「え、ちゃうん?」

「……いや、そうやで」

 昨日、夏実にはゆいはホテルにいたと伝えた。わざわざついた嘘を今日打ち明ける必要はない。なぜ嘘をついたのか、心のどこかで分かっているが、知らないふりをする。

「今日も暑くなるから、水分補給はちゃんとしなあかんでな」

「おん、分かった」


 残りをかきこみ、さっさと家を出た。

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