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第二十話 言っとくけど

 それから、ゆいが行きそうな場所――とは言っても、この街を彷徨(うろつ)くしかないのだが――を見て回ったが、ゆいどころかそのくらいの年代の人自体、見当たらなかった。平日でこの年代は学校に通っているからだ。むしろこの時間帯に彼らが歩いていれば、誰もが少々の疑問を抱くかもしれない。


 辺りの店が開店し始めたころ、それらの店も見て回ってみるが、見つからなかった。茶髪で帽子を被っている女。少女と言うべきなのか女性と言うべきなのか、どうでもいい事に疑問を感じながら、歩を速める。



「何でおらんのや……」


 喫茶店マリッジブルーに入り、そう呟いた。サユリを捜し、ゆいを捜し、ここ最近人を捜す事が多い。人探しに協力すると言ったからにはそうなる事は分かっているが、まさか人捜しをしている人を捜すことになるなど、想像もしていなかった。


 どこにもいないゆいは、一体どこへ行ってしまったのだろうか。もうこの街にいないという事も考えられるが、あんなにサユリを見つけたいと言っていたゆいが、中途半端にしたままでいるとは思えない。まだ数日しか一緒にいないが、そんな気がする。それに、もし見つかったのならば、それを伝えてくると思っている。ゆいはどこか周平と関わりたくないというオーラを出している。見つかったと言えば、それで周平が関わってくることはない。ゆいの願いが一石二鳥で叶うという事にはならないだろうか。


 そうは思うのだが、改めて自分はどこかゆいに避けられているのかと思うと、落ち込まないわけがない。学生時代から人に嫌われることを知らず、誰かが、あいつはどこか憎めない奴だ、と言っていたのを聞いた事がある。それを聞いて周平は安心したとともに、当然だとも思った。憎まれないように、嫌われないように、そして、その努力が見えないように過ごしているんだから。関西人だからって、心が頑丈とは限らない。辛いことだって悲しいことだってある。


 久しぶりに、悩んだ。

 人間関係のいざござが苦手だから、人の中身を無理矢理知ろうと思わないし、自分の中身を見せようとも思わない。


 久しぶりの感情に、周平は、ゆいのことが知りたくて堪らなくなっている。それは、本人も気づいている。ただ、それが恋心でない事は確かである。





 家に帰っても熱いだけだと考え、エアコンが効いているここにしばらくいることにした周平は、いつの間にか眠っていた。何度か起こされていたようだが、二時間ぐっすりと眠っていた。それから店を出て、ゆいを捜すついでに歩き回って、夕食の材料を買って、家に帰った。実に無意義な一日を過ごした。特に食欲もなく、昼食は食べていない。だが、腹は減っていない。


 夕食を作っている時に、夏実が帰宅した。いつもより早い帰宅だった。


「お帰りねぇちゃん。なんや、早いなぁ」

「腹が痛い言うて定時に帰って来たったんや。今日、ちょっと蒸し暑いなぁ」


 シャワーを浴びると言って、風呂場へ入った。その間に夕食を作り上げてしまう。


 水が流れる音の中から、鼻歌が混じって聞こえてくる。夏実がはまっているドラマの曲だ。あの夏実が嘘をついてまでして帰ってくることはありえない。大方、夏実の冗談で、定時に帰宅することが出来ただけであろう。


 皿に盛り付け、冷蔵庫からお茶とビール二本を取り出す。風呂上がりに一缶煽るのはいつものことだ。それが唯一の至福だというが、未成年で酒に弱い周平には分からない。


 テレビをつけ、ニュースに切り替える。

 サユリが行方不明になっている、というニュースはしていない。行方不明になっても、テレビで放送される人とされない人とがいるが、周平にはその違いが分からない。どうしても、行方不明者が放送されている人だけとは思えない。自分が知らない間に一人生まれて一人死んでいる世界なのだから。


 スタジオから外で取材をしているアナウンサーに声がかけられた。するとテレビ画面に裁判所が映し出された。一昨年殺人を犯した少年の裁判が、今日行われたらしい。


 少年は学校でいじめられ、いじめに耐えられなくなって殺した、と言われている。実際、少年もそう供述しているから、間違いない。まだ中学生である少年が殺人を犯すなど、誰が想像できただろうか。


「あー。その裁判、始まったんや」


 振り返ると、首にタオルをかけ湯気を放っている夏実がいた。いつも通り、タンクトップに膝までのジャージで、髪をみぎがわで三つ編みにしている。


 夏実は机の上にあるビールを手を取り、プルタブを起こす。ぷしゅう、と音が漏れ、少し泡が吹き出る。


「おん。また来月にあるんやって」


 腰に手を当てて喉をなら死ながら飲む夏実に言うが、勿論すぐに返事はない。っあー、と息を吐き出したあと、


「弁護側は、情状酌量を求めとるか?」


と、問うてきた。夏実の言うとおり、弁護側は、「いじめにあっていなければこんなことは起きなかった。被告人はこうするしか解放される術がなかった」と発言し、情状酌量を求めている。


 そのことを伝えると、夏実は当たり前だと言わんばかりに頷く。

「いじめる方に自覚がなかったとしたら、それはそれで以上やわ。その子、中学生やろ? 小学生ならまだしも、中学生であるにもなって子供染みたことするとか可笑しいわ。こんなんな、自業自得やで」


 被告と被害者は共に中学三年生で、同じクラス。受験に向けてのストレスがあったのかもしれないが、この時期にいじめの報告が入ると、受験が不利になるのは見えている。今や加害者は被害者となり、受験などどうでもよくなったのだが。


 続くニュースを見ながら、二人は食事を進める。今日の夕食は、炒飯とサラダ。少し足りないと思ったときは、各自でカップラーメンを食べるようにしている。ラーメン屋のメニュー表に炒飯セットがあるので、主にそれに便乗している。


「あ、そうや周平」

 炒飯を掬う手を止めて、周平を差す。

「捜索届けが出とる人の名前、写真撮って来たで」


 そう言って四つ足で鞄を近づき、赤いケースで覆われているスマホ取り出した。

「え、まじで?」

「おう。言っとくけど、これ情報漏洩(じょうほうろうえい)やから、そこらへんに言いふらすなよ」


 え、と呟いたが、その声は夏実に届かなかった。夏実が周平のスマホに画像を送ると、机上にあるスマホが震えた。画像を確認すると、『フジタサユリ』以外の捜索届けもあった。


「聞き覚えのある地名があるかもしれんと思って、一応全部撮って来た。後は、あたしの友達が勤務しているところに届いているやつも送ってきてもらった」


 名前だけを見て確認していくと、数枚、『サユリ』と読める名前があった。どのような漢字なのか分からないので、どれがゆいの言う『サユリ』なのか分からないが、もしゆいが知らないと言っても、一件ずつ回っていけない数ではない。他にも『水上柚実』『奥村夜比』『澤村龍一郎』など、老若男女の名前がある。


「なぁねえちゃん」

「ん?」

「何で罪になるようなことしてきてくれたん?」

更新頻度がぐっと落ちます。夏休みに、したいことがあるのです。私情ですみません。

ご理解よろしくお願いします。

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