04
5月です!新緑のみぎり、わたくし深窓令嬢は特になんの問題もなく学業に励んでます!
ゴールデンウィークも明け、クラスのみなさんはより一層その絆を深めたようだ。
あっちではゴールデンウィーク中に誕生日だった娘のパーティーの思い出に盛り上がり、向こうではご家族と一緒に旅行に行った子達が、あの橋が素敵だっただの、あれが美味しかっただの話している。
あっ、誕生日パーティーには私も誘われが、「ゴールデンウィークは家族とオーストラリアに行くの。今から楽しみ、ふふっ」と言って断った。オーストラリア旅行に行ったのは本当で、グレートバリアリーフはそれはもう凄かった!
グレートな!
バリアな!
リーフ!
って感じで、何千年だか何万年だかかけて形成させた珊瑚礁は圧巻の一言だった!何年かけて形成されたかは、お兄様がドヤ顔で教えてくれたけど私は景色に見とれていたからか、よく覚えていない……
そのお兄様だけど、旅行中は基本的にずっと不機嫌だった。なんでも万里子様と一緒に旅行したかったそうで、出発前日まで何度も誘っていたが、万里子様は万里子様でご家族とカナダに行くとかで、結局お兄様の願いは叶わなかったのだ。
あぁー、お兄様かわいそう。
「ふぅ……」
授業も終わり放課後、私への派閥勧誘はまだ続いているが、最近では少し下火になっているようで、数人に話しかけるだけで済んだ。
私は一人で放課後の廊下を進む。今日は学園の図書室にいく予定なのだ。
放課後の図書室で静かに読書……ん?これじゃ深窓の令嬢じゃなくて文学少女か?そもそも深窓の令嬢と文学少女の違いってなんだろうか……うーん、考えても分からない事は考えなくてもいいか。
おっ図書室が見えてきましたよー
目の前にあるのは重厚な扉、中から聞こえてくるのは何やら騒がしい声。
んん?ここは図書室だよね?なんでこんなにうるさいんだろう?
うーん、とにかく開けてみよう……
「きゃぁっ!こちらを見ましたわ」
「あぁ……あの横顔素敵……」
「えぇ、えぇ、本当に素敵ですわぁ…」
目の前に広がるのは恍惚の表情で一点を見つめる上級生のお姉様方。
そしてその目線の先にいたのは、私のよく知っている人物だった。
私はその人に駆け寄り声をかける。
「旬様!」
「ん?あれ、令嬢ちゃん?」
お姉様方の視線を一新に浴びてたこの方は、桜坂 旬。お兄様の大親友で、その柔らかな物腰と天使のような笑顔で、同学年の女子生徒の人気をお兄様と2分しているらしい。……ちなみに私の初恋の相手だ。
「旬様!こんな所でなにをなさってるんですか?」
「あぁ、僕は図書委員なんだ」
「旬様が図書委員!とてもお似合いだと思います!」
「ありがとう令嬢ちゃん。でも……」
旬様が私の唇の前に指で×を作る
「図書室では、もう少し静かに……ね?」
「は、はいっ」
「うん。いいこ」
はにゃー、なんて素敵なのだろう……私の頭を撫でないでー
まさに天使!
天使様、もっと私を叱ってくだしゃい!
……はっ!落ち着け!落ち着くのよ令嬢!私は深窓の令嬢なのだから!
優雅に上品におしとやかに、リピートアフタミィー、優雅に上品におしとやかに!
ふぅ、少しは落ち着けたかな?
「それで、令嬢ちゃんは何しにここに?」
「あっ私は、ちょっとよっただけといいますか…」
「ふーん、そうなんだ、ねぇ、よかったら僕が案内しようか?」
「えっ!いいのですか!?」
「うん、もちろんだよ」
わーい!旬様に案内してもらえる!るーるるらる
きゃぁっ、もしかしてこれって図書室デート!?そんな、旬様っこんな所でダメーっ!
「……じゃない!……って、なのに……」
楽しい時間って言うのはまさにあっという間ですわね、正直何をお話したのかよく覚えておりませんの。うふふっ
「……よね、本当……だから」
私と旬様の図書室デートは気付いたら終わっていて、委員の仕事が残っていた旬様とはそこでお別れだ。
「ちょっとあなた、聞いてるの!?」
そして私は今、さっき図書室にいた上級生のお嬢様方に囲まれている。夢見心地だったのに台無しだ。
「新入生よね?誰の許可を得て桜坂様に話しかけたのかしら」
「いいこと!?桜坂様は特別なお方なの、あなたのような子が話しかけていい存在じゃないのよ!」
うわー、ちょーこわーい。
確かに旬様は特別で完璧な王子様だけどね。
まぁここはとりあえず謝っておこう。
「申し訳ありませんでしたわ、お姉様方」
「分かればいいのよ!今後は桜坂様に近付かないでね」
「はい。分かりました」
「それで、あなた名前は?」
あー、聞いちゃうんだ…聞かない方がいいと思うんだけどなぁ…
「えっと…」
「御自分の名前も言えないの!良いから早く言いなさい!」
うん。そこまで言うなら教えてあげよう。ついでに夢見心地だった私を一気に現実に戻した罰を与えないとね。
「申し遅れました。わたくし、深窓 令嬢と申します」
「えっ!」
「ふっ、深窓って…」
「うそっ…まさか深窓様の…」
私の名前を教えた瞬間、お姉様方の顔色が一気に変わった。すごいなーさっきまで顔を赤くして怒っていたのに、今では真っ青だ。
「桜坂様はお兄様のお友達なので、昔から仲良くさせてもらっていたのですが、桜坂様に話しかけるのにまさか許可が必要とは思いもよらず、本当に申し訳ありませんでした」
「いやっ…あ、あのね…」
「あぁ、でも困りましたわ。桜坂様はよく家にも遊びにこられるので、そのたびに許可をとらないと…」
「そっそれは…」
「あっ、違いましたわね、もう近付いてはいけないのでした。ではお兄様にこの事を説明して、桜坂にはもう家に来ないように言ってもらわないと…」
困ったわ、と首をかしげ頬に手をあてて言う私に、一気にお姉様方は慌てふためく
「ふっ深窓様に!?」
「ご、ごめんなさい私達、深窓様の妹様とは知らずに…」
「深窓様の妹様でしたら、別に許可なんてとらなくても…」
「まぁ、よろしいんですか!」
「えぇ、も、もちろんよ」
「わぁ、ありがとうございます!優しいお姉様方でわたくし助かりました!」
満開の笑顔でお礼を言う私。深窓 令嬢のこんな笑顔はめったに見せないのよ、光栄に思いなさい。
「ではお姉様方、わたしくしはそろそろ」
「そ、そうね」
「ま、またね妹様」
私の完全勝利だ。敗残兵に背を向け、私は悠々と歩む
ふふっ、うふふっ、おーっほっほっほっほっ
あれ?今の私悪役ぽい…