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後編 クランマスターステラの揺心

第一ダンジョン「サカーイ深層迷宮」40階層セーフティルーム。

ボス部屋を出た後、二軍メンバーはセーフティルームの転移魔法陣で帰還していった。


40階層ボスのフェンリルは強敵であったが、二軍メンバーだけで攻略することができた。ステラは一軍メンバーの参加も想定していた。いや、最悪、自分たち精鋭5人の参加も想定していたのだ。このベストな状態で40階層以降へアタックできるのは、嬉しい誤算だった。

悔しいが「バフの魔術団」のお陰であることは、ステラも認めざるを得なかった。


本日の攻略は40階層までにして、セーフティルームに一泊する。魔法使いファイン=ノズゲットがアイテムボックスから、野郎ども5人のお泊まりグッズを次々と出していく。


「団長、いつもの女子がプリントされた抱き枕も出しちまいますか!?」


「おう! それがないとボクチン眠れないのねんのねん!!」


不穏な発言は無視して、「星屑の乙女」も黙々と宿泊の準備を進める。かなり離れた場所へテントを設営している男たち4人を見て、ステラがブルーノに質問する。


「ねえ、絶対近くで匂いを嗅ぐと思っていたのに、どういう風の吹き回し?」


「明日は大事なアタックだ。それくらいの気遣いは俺らにだってできるさ」


いつものふざけた調子とは違う。

ステラは少し意外そうにブルーノを見る。


「ブルーノ……」


(ステラの心にほんの少しだが、ブルーノに対する恋心が芽生える……)


「ちょっと、ブルーノ! 変なモノローグ入れないでよね!!」


「すんまそん」


◇◇◇◇◇◇◇◇


ステラはミスティと二人用のテントで静かに目を瞑っていた。精鋭5人のうち3人は、別のテントで休んでいる。ちなみに3人というのは、タンクのリザードウーマンであるザラ、防御魔法士兼ヒーラーの僧侶セレスフィア、前衛兼シーフの獣人フェリナである。


深夜、ふと目を覚ましたステラ。隣ではミスティが静かに寝息を立てている。ステラはもぞもぞと起き出すと、ミスティを起こさないよう、そっとテントから抜け出した。


テントから少し離れた場所でアイテムボックスから薪を出し、火魔法で焚き火を熾す。焚き火の前に腰を下ろし、ステラはじっと揺れる炎を見つめた。パチパチと薪のはぜる音に混じって、遠くから複数の鼾が結構な音量で聞こえてくる。


「だからあいつ、遠くに離れたのか……」


思わず小さく笑ってしまう。粗野で助平で、自分の男性の好みとは真逆の男。それなのに、おそらくS級冒険者並みの実力を持っている変な男……。

恋心なんて抱くはずもない。だが、気になっていることは確かである。


「よお、眠れないのか?」


「なななな、何よ、あんた! 夜這いでもかけに来たの?」


ちょうどブルーノのことを考えていた時に本人が現れたため、ステラは思わず挙動不審になってしまう。


「はは、信用ねぇな……俺もなんかいろいろと思い出しちまってよ……眠れねぇんだよ」


ブルーノはステラの隣へ腰を下ろし、焚き火に小枝をくべる。

しばらく二人で黙って炎を見つめる。


「ねえ、一つ教えてほしいんだけど……」


「ああ、何だい?」


「あなたたちだったらダンジョン最下層まで攻略できる。違う? それがなんで付与魔術師なんかになってるの?」


「なんかはひでぇな……」


「ごめん……あなたがそうじゃないのは分かっているんだけど、昔、付与魔術を信用してひどい目にあったから……」


「ふむ……俺も昔はちっとは名の知れた冒険者だったんだが……並外れた能力ってのは、他人に恐怖や嫉妬を生み出す」


いつになく静かな口調で話すブルーノを、ステラはじっと見つめる。


「俺も昔は結構尖っていたからな……敵も多かった。俺ら5人は皆そんなもんさ……似たもの同士が集まったんだ」


「でも、なんで今みたいな応援を始めたの?」


「俺たちが原因でゴタゴタすんのなら、いっそのこと戦いはやめて、戦う連中を応援しようってな……大して考えねえまま始めたのさ」


「そうなの……」


挿絵(By みてみん)


ステラは再び焚き火へ目を向ける。最初はただのガラの悪い連中だと思っていた。だが、どうやらそれだけではないらしい。


「あとは……そうだな。魔術団じゃないと叶えられない夢があるのさ……俺たちには」


「夢って……?」


「うーん、ステラちゃんの添い寝かなぁ」


「バカ! ちょっとでも見直した私が悪かったわ。お・や・す・み!!」


怒ったステラは立ち上がると、ブルーノを残してさっさとテントに帰ってしまうのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


翌朝、20人の攻略者たちは体力も魔力も回復し、41階層の攻略へとりかかる。41階層以降は、道中の魔獣もこれまでとは段違いに手強くなる。一軍といえども苦戦を強いられ、ステラたち精鋭に加え、ブルーノたちも戦闘に参加する。ようやく第45階層のセーフティルームへ到達した頃には、一軍のメンバーは満身創痍。ステラたちもかなりの体力と魔力を削られていた。


46階層以降もついていくと言った一軍メンバーを説得して帰還させると、残った10人は少しばかりの休憩を取ることにする。行動食や体力・魔力の回復ポーションをアイテムボックスから出し、体調を整えていく。


「ねえ、あなたたち……ポーションは大丈夫なの?」


「おう、ファイン! 出しな」


「ほいさ!」


ファインがアイテムボックスから出したのは、一升瓶に入った体力回復ポーションと魔力回復ポーション。その2本を男たち5人で回し飲みし始める。すると何故か気分が乗ってきたのか、肩を組んで適当な歌まで歌い始めた。

先ほどまで張り詰めていたステラたち5人も、その馬鹿みたいに陽気な姿を見ているうちに、少しずつ表情が和らいでいく。


「じゃあ、行くわよ。ブルーノ、ここからはバフ以外手出しは無用よ。駄目だとなったら、そこで終わりにするから」


「ああ、分かった。気を付けていけよ」


いつになく真剣なブルーノの目。

ステラはそれに応えるように、力強く頷いた。

混成チーム10人は、第46階層へ足を踏み入れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


第46階層はこれまでと異なり、通路はなく、大きな部屋が一つだけの構造になっていた。その奥に、7体の影が見える。第10階層のダンジョンボス、オーク・ジェネラルが6体。そして、その中央にはオーガ・キングが鎮座している。多少手強かったものの、バフなしで倒しきった。


第47階層は4体のタイラントボアと1体のレッサードラゴン。タイラントボアは、バフで攻撃力を上げてもらったザラとフェリナが力技で押し切った。レッサードラゴンはミスティの土魔法で足止めし、最後はステラの炎を纏った魔法剣で仕留めた。


第48階層はロック・ゴーレム5体、アイアンゴーレム5体、そしてミスリル・ゴーレム1体。次々と正確に核を破壊していくが、最後のミスリル・ゴーレムに手こずる。何とかステラが核を破壊し、先へ進む。


そして第49階層。

待ち構えていたのは4体のフェンリルと1体のグリフォンだった。ここまでの連戦による疲労もあり、乙女たち5人が徐々に傷ついていく。セレスフィアがヒールを繰り返すが、そのたびに魔力がどんどん削られていく。ブルーノたちのバフも最大限使って、何とかフェンリルとグリフォンを倒しきることができた。


傷はヒールで治すことができた。しかし、溜まった疲労と消費したスタミナはいかんともしがたい。5人はその場に座り込み、荒い息を整える。


「ステラちゃん、撤退するかい? それとも回復するまで待つかい?」


「ボスのリポップ時間がわからないから、長時間待つことは出来ない。せいぜい2時間ね。撤退しても、次にこの連続ボス部屋を攻略できるとは限らないし、このチャンスを潰したくない」


他の乙女4人も同じ気持ちのようで、みんなステラの方を向いて力強く頷く。


「まあ、俺たちにも一応、奥の手はあるんだが…… 」


「ん… なんか言った?」


「いや……よし! じゃあ、ポーションで回復したら、2時間後に最下層へアタックだな」


ブルーノの前向きな言葉に、ステラは少しだけ安堵する。それでも心の中には、わずかな不安が残っていた。その不安を振り払うように、ステラがブルーノに尋ねる。


「ブルーノ……信じていいんだよね? あなたのこと」


ブルーノが真剣な眼差しでステラを見つめる。


「俺に任せろ。絶対に攻略させてやる」


迷いのない言葉だった。ステラの表情から、ふっと不安が消える。


「だから、成功の暁には是非ステラちゃんのキッスを……」


「もうっ!!」


ブルーノのキス顔にステラの拳がめり込み、グレイスが慌ててヒールをかけた。

そんなブルーノを置いて、ステラは最深層の第50階層の扉をじっと見つめるのであった。

次回完結編「団長ブルーノの煩悩と乙女の苦悩」

乙女たちは最下層を攻略できるのか!?

明日もフレッフレッ、冒険者!

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