完結編 団長ブルーノの煩悩と乙女の苦悩
49階層セーフティルーム到達の2時間後――
最下層アタックの時が訪れる。
緊張と不安に震える気持ちを抑えながら、ステラたち10人は第50階層へと進んでいく。広い空間の奥に、一つの影が見えた。
「え……ひとり?」
敵は一体しかいない。しかし、身長は3メートル近くあるだろう。警戒しながら徐々に近づいていくと、その姿が明らかになった。
「ドラゴニュート……」
リザードウーマンのザラが呟く。竜の強さと人の器用さを併せ持つ竜人ドラゴニュート。竜種の中でも戦闘特化の個体で、王国でも討伐例は少ない。その両手には、それぞれ一本ずつ剣が握られている。
「二刀流ね。みんな気を付けて。相当の使い手よ、きっと」
ブルーノたち5人も整列し、すぐさまバフの準備を始める。
「星屑のぉ、乙女の勝利を祈念してぇ、戦闘の舞!!」
ザッと構えて両手を上げ、渾身の叫び声をあげる。
「奮ぇー、奮ぇー、おっとっめっ!!」
「「「「フレッフレッ! 乙女!! フレッフレッ! 乙女!!」」」」
ブルーノたちの掛け声が戦闘開始の合図だ。
「行くわよ!」
ステラの号令で、前衛のフェリナとザラがドラゴニュートに襲い掛かる。
「三・三・七びょーーぉしっ!!」
ブルーノが速度上昇のバフをかける。普段よりもはるかにスピードの乗った攻撃。
……のはずだった。
ドラゴニュートは左右の剣を構えたまま、その攻撃を軽々と躱してしまう。
「みんな! いったんどいて!!」
ミスティの叫び声に、前衛たちがドラゴニュートから離れる。
長い詠唱を終えたミスティが上級魔法を展開する。
「インフェルノ!」
特大の炎がドラゴニュートを包み込んだ。激しい炎が部屋を照らし、熱気がステラたちのところまで押し寄せる。
……やがて炎が消えていく。
「そんな……」
そこには、わずかに皮膚が焦げただけのドラゴニュートが悠然と立っていた。
次の瞬間、ドラゴニュートが地面を蹴る。呆気に取られている乙女たちに向かって、ものすごいスピードで襲い掛かってきた。
「ちっ!!」
クールタイムが終わり、ブルーノがすばやく速度上昇バフをかける。そのおかげで、前衛たちはなんとか攻撃をかわす。
隙を見てザラがシールドバッシュを叩き込むが、ドラゴニュートは微動だにしない。ニヤリと嗤ったドラゴニュートが、剣でザラを弾き飛ばす。
「ぐっ!」
バーサク化したフェリナが鋭い爪でドラゴニュートの首を切り裂く。しかし、鱗が数枚はげ落ちただけで、頸動脈には届かない。
「炎の剣!」
ステラが魔法剣を腹に叩き込む。だが、やはり固い鱗に阻まれてしまう。ドラゴニュートがステラに斬りかかろうと、剣を上段に構える。
「バリア!」
セレスフィアがすかさずバリアを展開する。しかし、完全に展開するより早く、ドラゴニュートの剣が叩き込まれた。それでもバリアで勢いが衰えたおかげで、ステラは後方へ飛びのく。
「危なかった……」
後方へ退避した前衛たちにセレスフィアがヒールをかけ、さらに防御魔法のバリアを展開する。ドラゴニュートとの距離を取った。
ドラゴニュートは追ってこない。遠くからこちらを見ながら、ニヤニヤと嫌らしく嗤っている。
前衛たちは呼吸を整える。だが、どうやって攻略したものか、まったく活路を見いだせない。
「どうする? ステラちゃん、諦めるか?」
ステラがブルーノをきっと睨みつける。
「いいねえ、まだ目は死んじゃいねえか。だが、このままじゃジリ貧だ」
「わかってる」
「一つだけ方法があるが、乗るかい?」
「あいつを倒せるのなら、何だってやるわ!」
「よっしゃ、言質取ったぞ! ファイン!!」
「ほいさ!」
ファインがアイテムボックスから何かを出し始める。ブルーノたちの行動に、乙女5人はキョトン顔。やがて乙女たちに手渡されたのは、ノースリーブの青いシャツと白いミニスカート。
「これは俺たち5人が何年もかけて特別な魔力を込めた特製品で、バフの効果を10倍に高めてくれる。5分間だけの一回こっきりだがな」
「え、防具って……これ、なんかの衣装じゃ……?」
「ああ、チア衣装っていって、女子の応援ルックなんだよ」
「「「「はあーー!?」」」」
副団長のファウストが、にやけた顔で説明する。
「いやー、この衣装を着たチアガールと一緒に戦うっていうのが、俺たち5人の夢だったんだよなぁー」
神妙な顔で、うんうんと頷いている残りの4人。
ステラの頭の中に、昨夜の焚き火での会話がよみがえる。
「ブルーノ……あんたの言ってた夢って……もしかしてこれのこと?」
「こんなに早く叶うとは思ってなかったよ。きっと似合うぜ、ステラちゃん」
「こんの……鬼畜が!! 返せ! 私の信用を!!」
「おっと、ステラちゃん……そろそろ着替えないと、あのドラゴニュート、こっち見てるぜ」
ステラはチア衣装を握りしめ、ブルーノを睨みつける。
「着替えてるとこ見たら、ボスの前にあんた殺すからね!」
「了解なのねんのねんのねん!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
チア衣装に着替えた乙女たち5人。ザラ以外の4人が、恥ずかしそうに短いスカートの裾を両手で押さえている。
「いや、他の4人はいいけどよ……あたしのこんなカッコ、需要あんのか?」
リザードウーマン・ザラの呟きをスルーして、ニヤケ顔のブルーノが注意を促す。
「ほらほら、ステラちゃん。手ぇ離さないと戦えないよ」
「もう! こうなりゃヤケよ! この怒りをボスにぶつけるわよ!!」
「「「「おう!!」」」」
別の意味で怒りに燃える乙女たち5人がドラゴニュートへ向かっていく。ミニスカートをヒラヒラとなびかせる後ろ姿を、男たち5人が感動の表情で見送っていた。万感の思いでファウストがブルーノに言う。
「団長……この依頼受けて、ホントに良かったな」
「うむ……眼福眼福」
「じゃあ、応援しましょうぜ。動きが激しくなればいろいろと楽しみが……」
「「「「「ウシシシシ」」」」」
感動の涙にむせびながら戦闘歌を歌う男5人。
一方、悔し涙を流しながら戦う乙女5人。
しかし、10倍に高められたバフの効果は凄まじかった。
ザラのシールドバッシュが炸裂する。先ほどは微動だにしなかったドラゴニュートが、今度は数十メートルも吹っ飛んだ。
「今よ!」
フェリナがものすごいスピードで吹っ飛んだ地点に先回りし、鋭い爪で頸動脈を切り裂く。血しぶきを上げるドラゴニュートに、ステラが一気に肉薄する。
ドラゴニュートがステラに向かって素早く剣を打ち下ろす。
「バリア!」
セレスフィアの防御隔壁が即座に展開し、その剣を弾き返した。
「炎の剣!!」
いつもの倍以上の炎を纏った魔法剣が、ドラゴニュートの鱗を焼き尽くし、その体を深く切り裂く。
「ミスティ!!」
「任せて!!」
ステラが直ちにその場から離れる。
「インフェルノ!!」
ミスティの火炎魔法がドラゴニュートを直撃した。凄まじい爆発と炎が巻き起こる。炎が消えた時、そこにドラゴニュートの姿はなかった。
「やった……」
最下層のボスを倒し、喜びに包まれる乙女たち。
5人の胸にブルーノたちへの感謝の気持ちが湧き起こる。
だが――
ステラたち5人が、ゆっくりとブルーノたちの方へ振り返る。
炎に照らされた5人のニヤケ顔を見た瞬間、感謝の思いは燃え尽きた。
燃え盛る炎を背に、横一列に並んで男たちへ近づいていく。
炎が逆光になり、その表情はまったく見えない。
「だ、団長……なんか彼女たち怒ってないっすか?」
「だろうな……逃げるのねん!!」
当然逃げ切れるはずもなく、男たちはボコボコにされた挙句、ヒールを禁止されるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「星屑の乙女」が「サカーイ深層迷宮」最下層を攻略したというニュースは、すぐにカヴァーチ中を駆け巡った。多くの人々から称賛を受けた乙女たちは、一躍時の人となる。
先を越されたレオンハルトがブルーノに詰め寄るも、「だったらこれを着てみろ」とチア衣装を渡され、すごすごと退散したのは、また別のお話。
その大騒ぎもだいぶ収まった1か月後。乙女たちのクランハウスに「バフの魔術団」5人が、頼んでもいないのに懲りずに現れた。相変わらずクンカクンカしている。
「なあなあ、ステラちゃん。またダンジョン攻略に行かん?」
「あんた、よくそんなこと言えるわね」
「今度は看護婦の衣装用意したからさ……一回だけでいいのねん」
ワナワナワナ……
「誰が着るかぁーー!!」
「でも、着るだけで攻略できるんだったら……」
「ミスティ!?」
プライドを捨てて実利を取るべきか……。
乙女たちの苦悩は続くのであった。
―――― 完 ――――
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回作は『幕末 酔剣 vs 新選組』を投稿予定です。
今度は異世界から幕末へ。
酔っぱらいが新選組と戦います。




