Ch.1『15000チップの約束 ―辺境の修理屋、旅立ちの決心―・4』
お読みいただきありがとうございます!
操野形人と申します。
今回でChapter1はラストです!
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
二人が偽りの友情を深める中、キッドはぬるくなったスープを飲み干し、ようやく核心を切り出した。
「瑠美、実は……話さなきゃならないことがあるんだ」
キッドはリアとの出会い、そして彼女の口から語られた「太陽のゆりかご」と「7つの灯台」という場所について、順を追って説明した。
最初は相槌を打っていた瑠美だったが、話が進むにつれて表情が硬直し、ついには勢いよく身を乗り出した。
「はぁッ!? ……今なんて言ったの? その拾ったお宝がリアちゃんで、彼女がアニマのプロトタイプ? しかも、その彼女を狙って帝国が動いているですって!?」
瑠美は扇子で口元を隠しながら、改めてリアを射抜くような鋭い視線で観察した。
にわかには信じがたい話だが、目の前のリアが放つ、普通のアニマどころか並のワンオフモデルですら比較にならなそうな規格外の洗練された気配……彼女の美貌そのものが、キッドの言葉に凄まじい説得力を与えていた。
「(……なんてこと。帝国の最重要機密がこんなド田舎の修理屋の懐にあるなんて)」
瑠美の瞳の奥で計算が瞬時に回る。彼女は驚愕の表情を隠し、ふっと妖艶な笑みを浮かべた。
「荒唐無稽すぎて、普通なら鼻で笑うところね。……だけど、キッド。私、あんたが嘘をつく時の顔、知ってるの。今回は……本当なのね?」
「ああ。嘘じゃない」
キッドの真剣な眼差しを受け、瑠美は観念したように肩をすくめる。ここでキッドが本題を切り出した。
「というわけで、瑠美。俺たち、これから『灯台』を探しに旅に出ることにしたんだ。まずは必要なものを揃えて、大陸全土の詳細な地図と情報も集めなきゃならねェ。……お前の力を貸してくれないか」
その瞬間、先ほどまでの驚きは霧散した。瑠美の瞳にはギラギラとした商売人の光が宿る。
「世界を救う旅、ねぇ……。随分と重たい話じゃない。でも、まあいいわよ。商売となれば話は別」
瑠美はパチリと扇子を閉じ、キッドの顔を覗き込む。
「私のネットワークをフル活用すれば、明日の朝ご飯から帝国の機密まで、何だって引っ張り出せるわ。……ただし、報酬は相応のものをもらうからね。これからは、私のことをせいぜい大事にしなさいよ。わかった?」
瑠美はニタリと笑い、リアの方を見て意味深にウィンクをした。リアは不思議そうに瞬きをするが、瑠美はそれを無視して、キッドの旅路という名の「博打」に全力で乗る覚悟を決めたのだった。
瑠美はテーブル越しに手を差し出す。
「さて。事情は分かったけど。商売は前払い制よ。例外はないわ。……当然、旅に出るための『先立つもの』はちゃんとあるんでしょうね?」
キッドは「あぁ、もちろんさ」と胸元から財布代わりの小さなケースを取り出し、中身を確認した。しかし、そこに残っていたのは数枚の欠けたヒートチップだけだった。
「…………あれ? 思ってたより減りが早いな」
瑠美はケースの中身を一瞥し、呆れたようにため息をついた。
「いい? キッド。アンタの持ってるその端金じゃ、せいぜい明日の朝食が関の山よ。旅なんて夢のまた夢ね」
「……ぐっ。そこまで言わなくてもいいだろ」
瑠美は涼しげな顔で指を立てる。
「いいこと。禁忌の山なんていう辺境中の辺境はせいぜい監視ドローン止まりだったろうけど、フリーランズの外には帝国の検問所が張り巡らされているわ。正規の手続きなんて通るはずがない。地図と情報は当然として。更に『偽造パスポート』と、いざという時のために検問を強行突破するための『高出力エンジンパーツ』も必要よ。……これだけ揃えるのに、最低でも15,000チップはかかるわ。これがあんたたちが次の目的地へ向かうための『目標額』ね」
「1万……5千!? んな金、今のこの街でどうやって……」
横で聞いていたリアが、キッドの手元にある小さな金属片――ヒートチップを不思議そうに見つめた。
「……瑠美さん。キッド様が悲痛な顔をされているその『チップ』とは、一体なんなのですか? 私のデータベースには、このような形状の通貨や交換媒体の記録がありません」
リアのあまりに純粋な問いに、瑠美は「はぁ……」と深いため息をつきながら説明を始めた。
「いい? リアちゃん。この世界で『ヒートチップ』は命そのものなの」
キッドもチップを指先で弄りながら、苦笑交じりに言葉を継ぐ。
「大陸が『休眠期』に入ると外気は凍りつく。その寒さから身を守る暖房や、こうして店を動かす動力炉を維持するために必要なエネルギー……それがこのチップなんだ。これを消費して熱を作り出さなきゃ、人は数分で凍りつくのさ」
「……つまり、これを失うことは物理的な死を意味するのですね」
「そういうこと!このチップがなければ、帝国に殺される前に寒さでくたばるわ。……ねえキッド、もしかしてアンタ、無一文で私に商売をさせようとしてたの?」
「ち、違う! 明日には稼ぐ予定だったんだよ!」
賑やかな店内で、瑠美の呆れ声とキッドの言い訳が重なった。
「……そう。なら話は早いわ。じゃあ、早速してもらおうかしら。『ろ・う・ど・う』」
瑠美は扇子をパチリと開くと、キッドの修理屋としての「溜まりに溜まった依頼リスト」を突きつける。
リストには『動力炉の目詰まり』『ネオン看板の配線修理』『アニマの関節調整』など、街の住人たちから寄せられた切実な依頼がずらりと並んでいる。
「ま、マジかよ……これ全部片付けるのに、最低でも1週間以上はかかるぞ」
キッドが頭を抱える中、リアがキリッとした表情でキッドの両肩に手を置いた。
「キッド様、そう悲観することはありません。……これは、私たちが旅に出るための必要な『対価』。でしたら、私も働きます」
「え、リアが? いや、でもリアが街の機械いじりなんて……」
「二人の旅なのですから。キッド様だけを働かせるわけにはいきません。それに、この街の住人たちの営みを知ることは私のデータベースにとって有益なはずです」
リアの真っ直ぐな瞳に、キッドはたじろぐ。彼女の「キッドと対等でありたい」という健気な決意に、キッドは言葉を詰まらせた。
そこへ瑠美が割って入る。
「安心してよ、キッド。リアちゃんにはもっといい仕事があるの。それに私がついててあげるから。迷宮みたいなこの街じゃ、あんたみたいなどんくさーい男より、私みたいな『街の事情通』がついてた方が心強いでしょ?」
「……うっ。それはまあ、否定できねェけど」
「決まりね! さあ、キッドは山積みの修理仕事を片付けて。リアちゃんは私と一緒に街中の仕事を回るわよ。仕事を完璧にこなして顔を売れば、大口の依頼も舞い込むようになるわ。……ねえリアちゃん、覚悟はいい?」
リアは力強く頷いた。
「はい。目標金額15,000チップ。計算上、一週間はフル稼働出来ます」
「そう! その意気よ。……あ、でもそうね、まずは初日で500チップあたりを稼ぐのが現実的なスタート地点かしら。それが出来ればキッドの修理屋の仕事と合わせて順調な滑り出しと言えるわ」
瑠美の言葉に、リアは自身のステータス画面に真剣な眼差しで「目標:500」と入力した。
こうして、リアの『はじめてのおつかい』が始まった。
それは、ただのチップ稼ぎの労働ではない。街の住人たちとの交流、そしてリアが人間という存在を理解するための、かけがえのない「冒険の序章」だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
楽しんでいただけましたでしょうか?
次回からついにフリーランズでのクエスト編!!!
ここからアクションパート増やしていくのでご期待いただければ幸いです!
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次回の更新もぜひ楽しみにしていてください!




