Ch.1『15000チップの約束 ―辺境の修理屋、旅立ちの決心―・3』
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操野形人と申します。
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
『活動期』の訪れとともに、フリーランズはまるで巨大な心臓が再起動したかのように脈動を始めた。
この街は巨大な屑鉄の壁に囲まれた、さながら「ゴミの迷宮」だ。入り組んだ裏路地が網の目のように重なり、わずかな空間さえ惜しむように、食料品からジャンクパーツ、妖しげな娯楽品を売る店までもが所狭しと軒を連ねている。
頭上を見上げれば、原色の毒々しい看板や、明滅するネオンサインが混沌を彩り、街全体が巨大な電子回路の一部であるかのような錯覚を抱かせる。
数日前までの静寂が嘘のように、今は街のいたるところで怒号のような商談と笑い声が渦巻いている。
だが、この活気はあくまで『活動期』だけの儚い夢だ。ひとたび大陸全土が『休眠期』に入れば、すべてのシャッターが下ろされ、この迷宮は文字通り、音のない「死の街」へと変貌するのだから。
そんな喧騒の中を、キッドは少し気まずそうに歩いていた。
左右には対照的な二人の美女。
艶やかなチャイナドレスを纏った瑠美と、ステンドグラスのような気品を漂わせるリア。
その並びはこの薄汚れたフリーランズではあまりに浮きすぎていた。
「おいおい、キッドの奴! またドえらい獲物を拾ってきたな!」
「やるじゃねェか! おじさんは羨ましくて涙が出るよ!」
道行く年配の商人たちが、ニヤニヤと笑みを浮かべてキッドをからかう。
一方ですれ違う若い連中はキッドへの嫉妬を隠そうともせず、地団駄を踏みながら羨望の眼差しを射ていた。
「キッド様……彼らはなぜ、私とあなたを指差して騒ぐのですか?」
リアが純粋な瞳で尋ねると、キッドは引きつった笑みで必死に誤魔化す。
「い、いや! 何でもねェよ。ここの連中はただ騒ぐのが好きなだけだ。……なぁ、瑠美?」
「ふふ、そうね。……皆、キッドが世界一の『目利き』だって褒めてるのよ」
しばらく歩くと、不意に視界が開けた。オープンカフェと呼ぶにはあまりに質素な作りだが、無造作に並べられた椅子と机では、人々が思い思いに食事を楽しんでいる。
その一角で、ひときわ異彩を放つのが中華飯店『紅龍軒』だ。
店そのものを凌駕するような巨大なネオン看板が赤々と灯り、壁面を埋め尽くす提灯や東洋の装飾が、妖しくも賑やかな活気を演出している。
この街で一番の人気を誇るこの場所こそが、瑠美がウェイトレスとして働く職場だった。
「到着! 私は準備があるから二人は適当に座ってて」
瑠美はそう言い捨てると、慌ただしく店の中へと消えていった。
彼女に続いて暖簾をくぐれば、外のネオンや装飾に負けず劣らず、店内は極彩色に満ちている。鼻腔をくすぐるのは、食欲をそそる濃厚なスパイスの香りと、中華鍋から立ち上る焦げた油の匂いだ。
しばらくして、瑠美は慣れた手つきでスープと叉焼飯を運んできた。彼女はそのまま、キッドとリアが腰を下ろすテーブル席へと滑り込む。
「さあ、食べて。これは私の奢り。……といっても今の時期は出せるメニューも限られてるけどね」
熱々のスープと出来たての叉焼飯の温もりが店内を満たす中、リアが不意に口を開いた。
「……瑠美さん」
彼女の淡い蒼の瞳が、瑠美の指先から首筋にかけての関節部を、分析するようにじっと見つめている。
「失礼を承知で伺います。先ほど何人ものアニマとすれ違いましたが、貴女の身体構造はこのフリーランズにあるどのような個体とも異なる設計思想を感じます。……私と同様に、かなり高位の技術で造られた一点物とお見受けするのですが、なぜこのような場所に?」
瑠美は深いため息を一つ吐き、遠い目をして語り始める。
「……私の元いた場所は、アルカディアでも有数の権力者のお屋敷だったわ。でも、元の主人が亡くなった途端に奥様が豹変して。私を『主人の寵愛を受けた罪人』だと言って『休眠期』の最中に、この着の身着のままで吹雪の中に放り出したのよ」
彼女はしなやかな指先でパンダバッグを撫で、瞳にうっすらと涙を浮かべる。
「その時、唯一この子だけが私を守ってくれたわ。凍える夜も、この子を抱いて温め合いながら、私は生き抜いてきたの……」
キッドは食事に夢中でそもそも話なんか聞こえてないのか、大盛りの叉焼飯を頬張ってはスープを啜って幸せそうな顔をしているが、リアの表情は劇的に変化していた。
先ほどまで瑠美に向けていた冷ややかな敵意は消え、代わりに憐れみが浮かんでいる。
「……そんな。なんて酷い仕打ちなのでしょう」
リアは向かい側に座る瑠美の手を思わずそっと取った。
「瑠美さん、いいえ、瑠美様。私、誤解しておりました。そんな辛い過去がおありだっただなんて……貴女のような苦労をしてきた方に、私は酷い態度をとってしまいました」
「……ええ、そうなのよ。リアちゃん、わかってくれるなんて……私、本当に嬉しいわ」
瑠美は悲劇のヒロインの仮面を被りつつ、リアの純真さに内心で舌を巻く。これ以上ないほど手応えのある「騙しやすさ」だった。
「これからは私たちが守りますから。ね、キッド様?」
「あ? ああ、まぁ、瑠美にはいろいろ世話になってるしな」
リアの申し出に、キッドは少し驚きながらも同意する。
リアの心から自分への警戒心が消えたことを確認し、瑠美は心の中でニタリと笑った。
「ありがとう、リアちゃん。……これからは仲良くやりましょうね?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
楽しんでいただけましたでしょうか?
次回、意外な事実が判明して…!?
キッドとリアは果たして旅に出れるのか…!!
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次回の更新もぜひ楽しみにしていてください!




