Ch.2『10チップの依頼と野良猫に隠された秘密・1』
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操野形人と申します。
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
翌日。
リアは瑠美の自室で目を覚ました。
質素ながらも東洋風の小物が飾られ、至るところからパンダのぬいぐるみが顔を覗かせる、どこか愛らしい部屋だ。
「おはようございます、瑠美様」
「ふぁーあ……はい、おはよう……」
寝起きからテキパキと動き、掛けていた毛布を畳むリアに対し、瑠美は大きく伸びをしたものの、まだ夢見心地のまま寝ぼけ眼を擦っている。ベッドの温もりを名残惜しそうにする彼女の姿に、リアは微笑を浮かべた。
「リアちゃんは朝から元気ねぇ」
「はい。本日は旅の資金を稼ぐための大切な日です。いつまでも休んではいられません」
「真面目ねぇ」と零しながら、瑠美はようやく重い腰を上げた。
「あっ、そうだ。私のソファの寝心地はどうだった? この街にしては結構いいもの使ってるのよ」
「はい、おかげさまで非常に快適でした。……瑠美様、この度は本当にありがとうございました。この一宿の恩、決して忘れません」
「……大袈裟ねぇ。ま、そう思うならその『ご恩』はいつ返してくれても構わないけど」
瑠美は悪戯っぽく笑ったあと、突然、何かを思い出したように小さく地団駄を踏んだ。
「それにしてもキッドの奴……! 女の子一人を家に連れ帰ることも出来ないなんて。あの甲斐性なし!」
キッドの工房はガラクタの山に埋もれ、人一人が横になれるマットを敷くのが精一杯の有様だった。困り果てたキッドと、それでも彼に付いて行こうとするリアを見かねた瑠美が工房の片付けが終わるまでの間、リアを預かることになったのだ。
「ですが瑠美様。やはり私もキッド様のお手伝いをした方がよかったのでは……」
「ダーメよ、ダメダメ! リアちゃんがそんなに甘やかしたら、アイツ絶対いつまで経っても成長しないんだから!」
「そういうものですか?」
瑠美はきょとんとするリアの顔をビシッと指差した。
「そうよ。目覚めたばかりのリアちゃんにはまだ分からないかもしれないけれどね。人間ってやつは効率だけじゃ測れないの。時には敢えて『非効率』な体験をさせることが、何よりの糧になることもあるんだから」
「……そういうものなのですか」
納得したのかしていないのか、リアは小首を傾げながら小さく頷いた。
「そういうものなの!」
瑠美は快活に笑い、すっかり目が覚めた様子だった。
「さて、じゃあ労働の前に燃料補給と行きますか。大したものはないけれど、さあさあ、リアちゃん。座って座って」
瑠美はキッチンの横にある椅子の背を引いて、リアを促す。
「ちゃちゃっと準備するから、ちょっと待ってて」
「そんな! 私も手伝います!」
「しゃらっぷ! お客様はもてなされるものなの!」
瑠美は鼻歌交じりにキッチンへ向かった。
年季の入ったコーヒーメーカーがゴボゴボと音を立て、トースターに放り込まれたパンが香ばしい香りを漂わせる。錆びついたフライパンで焼かれる二つの目玉焼き。
いつも通りのルーティンのはずが、用意する量が二倍になっただけで、瑠美の胸には新鮮な喜びが広がっていた。
「出来た出来た! 瑠美ちゃん特製モーニングセットよー! ご賞味あれ!」
二つのお盆を両手に持ち、瑠美は軽やかなステップを踏みながらリアの前に朝食を運ぶ。見事な回転にもかかわらず、皿の上はもちろん、カップからコーヒーの一滴さえこぼれない。さすがは看板娘、といった身のこなしだ。
「温かいうちにどうぞ!」
「……何から何まで、感謝いたします」
「じゃあ、はい」
瑠美の合図に合わせ、二人は手を合わせた。
「「いただきます」」
二人の声が重なる。焼きたてのトーストの上で、目玉焼きととろけたチーズが食欲をそそる香りを放っていた。
「胡椒をかけてね」
促されるまま、リアはナイフとフォークを使い、チーズトーストを上品に口へと運ぶ。手掴みで豪快に頬張る瑠美の姿を見て、リアは珍しくクスクスと笑みをこぼした。
「……誰かと食卓を囲むというのは、何だか不思議なものですね。ただのエネルギー補給だというのに、不思議と感情回路に温かい揺れが走るような感覚があります」
瑠美はトーストを咀嚼しながら、リアの言葉に目を細めた。
「誰だってそうよ。基本、生き物はみんな『分かち合うこと』を望んでいるの。……だから、たまに思うのよ。こうして食事をして、あれが美味しかった!とか、あれはイマイチだったーなんて誰かと語り合っているとさ。私たちアニマと人間……一体何が違うのかしらって」
リアは少しの間、沈黙した。
感情回路の奥で、膨大な情報が波のように揺らぐ。
「……違い、ですか。私にはまだ、明確な答えを導き出せそうにありません」
リアはチーズトーストに視線を落とし、迷うように呟く。
「けれど、もし瑠美様とこうして食事をしている時間が、私のプログラム上の『世界を救う』という最優先事項と同じくらい……いいえ、それ以上に愛おしいものだと感じるなら」
彼女はゆっくりと顔を上げ、少しだけぎこちない、けれど確かな温もりを宿した微笑みを浮かべた。
「私たちは人間と何ら変わらないのかもしれませんね」
あまりに直球なリアの答えに瑠美は一瞬目を丸くし、それからパッと顔を赤らめた。
「まったく……リアちゃんてば、真面目なんだから。そんなマジメな顔で言われちゃうとこっちが恥ずかしくて困るわよ!」
柄にもなく感傷的な話をしてしまった自分が急に照れ臭くなり、瑠美はわざとらしくあはは、と笑って顔を背ける。
「……さあ、ほら! そんな湿っぽい話は一旦置いておいて! 今のうちにきっちり食べておかないと! 今日の仕事はハードになるわよー?」
場の空気を切り替えるように、瑠美はニカッと笑って愛嬌たっぷりにウインクを飛ばした。
「どうせならあの甲斐性なしのキッドをあっと言わせるくらい、思いっきり稼いでやらないとね!」
何でも屋業務、一日目。
キッドの相棒として、そしてこの街に溶け込み始めた一人の少女として。
リアの最初の一歩が今、力強く踏み出されようとしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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次回、新キャラ登場!本作に珍しいロリキャラです!
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