Ch.0『雷光の狂犬 ―目覚めた「鍵」と帝国支配の影―』
【前回までのあらすじ】
雪と氷に閉ざされた世界。
修理屋の少年キッドは150年の眠りから覚めた少女リアと出会う。二人はペアリングを通じ「誓約の光刃」を手に帝国軍の追撃を退け、世界を救うための大陸横断の旅へと出発した。
ガラクタ修理屋と、眠れる少女の物語。
お読みいただきありがとうございます!
操野形人と申します。
今回からいよいよSeason1が始まります!
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
技術復興省の奥深く、偽りの陽光すら届かない執務室。巨大なモニターに映し出されたのは遥か彼方の雪山で発生した天を突くティールグリーンの光の奔流だった。
イゾルデ・ダ・ヴィンチは、そのモニター越しに光を見つめ、静かに、しかし確かな殺意を込めて手にしていたワイングラスを握り潰した。指先から滴るはずの血は、彼女の半身が機械化した肉体からは一滴も零れることはない。
「……そう。ようやく目覚めたのね」
彼女の瞳には、冷たい炎のような憎悪が渦巻いていた。かつて自分から全てを奪い去った忌々しき機械の人形が、再び目の前に立ちはだかろうとしている。
もはや一刻も猶予もない。何としても脅威は排除せねばならない。
イゾルデが殺意をふつふつと煮詰めていたその時、重厚な扉が無遠慮に蹴破られた。
「おい、イゾルデ! 見たか今の光! いやー、驚いたねぇ。あんなに美しい光がまだこのつまらん世界に埋もれていたなんてさ!」
部屋に乱入してきたのは、技術復興省のエースであり、戦場では“雷光”、あるいは“狂犬”の異名で恐れられるフレイヤ・O・ルスタード。
彼女は不遜にもイゾルデの執務机に飛び乗り、そのまま腰掛けた。
「あいつ、私の舞踏の相手に相応しいよ。……どうせ手こずってるんだろ? だったら私を行かせろ。あの光の正体を、この手で切り刻んで確かめてきてやる!」
子供のように足をバタつかせてフレイヤがデスクに衝撃を加えるたび、イゾルデの手元にある透明な円筒ケース――「トリスタン」と名付けられた歪な機械の脳が、幾つもの光の粒を明滅させて絶叫するように拒絶を示す。
「……私のトリスタンをあまり驚かせないで頂戴」
ゾッとするような冷たい目つきを向けるイゾルデに対し、フレイヤは下卑た笑いを返した。
「へえ……? そんな気味の悪いゴミ箱を抱えてるなんて随分と趣味が悪いねぇ」
フレイヤは興味深そうに、そして獲物を狙う獣のような鋭い瞳でイゾルデを見下ろす。執務室には冷徹な支配者の殺気と、破壊を望む狂犬の闘気が衝突し、ひりつくような緊張が満ちている。
しばらくの沈黙の後、イゾルデは心底呆れたように肩をすくめ、深いため息をついた。
「……そんなに行きたいなら、好きにすればいいわ。なんなら、その『美しい光』とやらを切り刻むために、一個師団くらい付けてあげましょうか? 貴女のその独りよがりな舞踏が、少しはマシに見えるかもしれないし」
イゾルデの言葉はフレイヤの実力を鼻で笑うような小馬鹿にした響きを含んでいた。
「あぁん? 私を誰だと思ってるんだ?」
フレイヤの表情から笑みが消え、代わりに獲物を引き裂く直前の野性味あふれる凶相が浮かぶ。
彼女は怒りで震える拳を握りしめ、デスクを蹴り飛ばす勢いで立ち上がった。
「そんなものいらん! 数で囲むような退屈な真似ができるかッ!」
フレイヤはそう吐き捨てると、先ほど入ってきた時よりもさらに激しい音を立てて、執務室の扉を吹き飛ばすようにして出て行った。
残された執務室には、イゾルデの冷たい静寂だけが戻る。彼女は再びモニターの中のティールグリーンの光を見つめ、細い指でトリスタンのケースを優しく、愛おしそうに撫でた。
「……せいぜい暴れてきなさい、狂犬。貴女という名の捨て駒が息絶える、その日まで、ね」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
楽しんでいただけましたでしょうか?
意味深な敵側パート……次回、ついに旅の目的が明らかに!
もし続きが気になったら、ぜひブックマークと評価で応援していただけると、激務の合間に執筆している私の大きな糧になります……!
次回の更新もぜひ楽しみにしていてください!




