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Ch.1『凍てつく世界の眠れる少女 ―誓約の契約と覚醒―』( 1)

お読みいただきありがとうございます!

操野形人と申します。

本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打って、凍てつく大地を舞台に熱血漢の修理屋とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語です。いよいよ第一話!楽しんでくださったら嬉しいです…!


【お知らせ!】

本日は二本立て!!

21:00にもう一本アップされます!

ぜひ物語が動き出す瞬間をご覧ください!


「おい、アイボー。荷造りはいいか?」


大きな皮のカバンにコンパスやレーション、護身用の武器も兼ねた巨大なレンチを乱雑に放り入れてから、キッドがガレージの奥から引き出したのは車体だけで廃材の山を幾つも費やした特製スノーモービル『マッシグラー』だった。


エンジンを点火させると工房内に重々しい咆哮が響く。排気熱で周囲の空気が揺らぐ。

彼は自作の極寒地用防護スーツを羽織った。何層もの断熱材を重ね、廃軍用機の装甲をパッチワークのように継ぎ接ぎしたその服は、見た目こそ無骨だが彼の命を預かる最高の「盾」だ。


「……吹雪がひどいな」


外へ出ると視界は真っ白に塗り潰されていた。キッドはゴーグルのノブを回す。アイボーが送ってくる赤外線センサーの映像がHUD(ヘッドアップディスプレイ)上に目的地への軌跡を赤く浮かび上がらせた。


「行こう、世界を救う旅の始まりだッ!」


全てを阻む暴風雪であっても、今のキッドが止まる理由にはなりはしなかった。

雪と氷の地平線にキッドの乗る『マッシグラー』が一条の軌跡を描いて飛び込んでいく。


鉛色の空の下、キッドはスノーモービルを走らせる。

空を見上げれば、技術復興省テクネーの監視ドローンが規則的な軌道で空を掃いている。正規のメカニックライセンスを持たないキッドにとって、その光は「死の宣告」に等しい。


(……また検問か。帝国は本当に技術を独占しなきゃ気が済まねぇらしい)


脇道に逸れ、12m級の巨大なロボット(アルカナ)の残骸が折り重なるスクラップの谷間へ滑り込む。かつては人々の生活を支えていたであろう機体も今は動力炉を抜き取られ、ただの冷たい鉄の塊と化していた。その傍らには鉄の巨人を動かす鍵であった人型アンドロイド(アニマ)も抜け殻となって横たわっている。


「これじゃ動かねぇか……」


文字通りの機械の墓場だ。

キッドは機械たちに思いを馳せて、寂しげに呟いた。


じいちゃんは言っていた。かつて技術は「自由」だったと。だが今は、巨大な軍事国家である帝国ヴァルへイムが擁する技術復興省のその紋章――鎖に巻かれた電球の刻印がなければ、ただのネジ一本動かすことすら罪になる。


「……見てろよ、じいちゃん。俺が証明してやる。技術ってのは誰かを助けるためにあるもんだって」


視界の先、雲を貫くように聳え立つ禁忌の山。

近づいた者は二度と戻らない。そんな物騒な噂が絶えない「死地」だ。だが、キッドにとってそれはもう恐怖の対象ではなかった。


(一体、何があるんだ……)


じいちゃんが遺した地図がキッドの胸元で熱を帯びている。それはただの紙切れではない。数十年を経てなお反応を止めない、意思を持った遺産だ。

誰も知らない場所へ。

この血と、じいちゃんから受け継いだガラクタへの情熱だけがキッドを突き動かしていた。


どれほど走っただろうか。

標高は上がり、吐息は白く凍りついていく。スノーモービルの駆動系が軋みを上げ、オイルさえも粘度を失い、悲鳴のような異音を立て始めている。


「……おい、もうちょっとだけ頑張ってくれよ」


キッドが凍りついた指先でハンドルを叩いた、その時だった。

胸元の地図が激しく鼓動し、青白い光の筋となって目前の反り立った岸壁を指し示した。


「……ビンゴかッ!」


キッドはモービルを乱暴に乗り捨てると、息を弾ませて駆け出した。雪に足を取られながら、地図の光が収束する地点へたどり着く。


キッドの指先が、光の指し示す冷たい岩肌に触れた。


触れたのはただの凍りついた岩ではない。高度な光屈折技術を用いて、周囲の雪景色と同一化させることで決して見つけられないようになっている隠し扉だ。

彼の指が特定のパターンで隠し扉の回路を叩くと、雪解けのように岩の表面がスライドし、入り口が現れる。


「……行こうぜ、アイボー」


覚悟を決めたものの、隠し工房の扉が開いた瞬間、キッドは息を呑んだ。

扉の先は、世界から音が切り離されたかのような静寂と、乾燥しきって張り詰めた重い空気。


灰色の雪原を歩いてきたキッドにとってその光景はあまりに異質であり、あまりにも神聖だった。ガラクタの山で育った少年にはもはや呼吸をするのさえ躊躇われるほどに。


「本当にこれが……工房なのか……?」


そこはまるで時が止まったままの豪華な洋館の一室。高く広大な天井からは、重厚なシャンデリアの代わりにドライフラワーと布地を幾重にも組み合わせた巨大な木の造形(オブジェ)が枝を広げるように鎮座している。

床にはうっすらと灰のような埃が積もっているが、それがかえってこの場の神聖さを際立たせていた。

キッドのよく知っている機械工房の姿とはあまりにもかけ離れている。

空間を埋め尽くすのは慣れ親しんだオイルの匂いではなく、長い年月を経て乾燥した花々と古い調度品が放つ甘やかな香り。

それはこの荒廃した世界において唯一、美しさだけが真空パックされたかのような異質な光景だった。


「やべっ」


ブーツに付いた泥を反射的に払おうとして、キッドはつい慌ててしまう。

主がいなくなって久しいその場所で客人の粗相を気にするものなど、もはや誰もいないのだが彼は完全に雰囲気に呑まれていた。


そんなキッドの様子を部屋の至る所に精巧な陶器の人形——あるいは人形の形をした精密機械たちが見つめている。

彼ら(彼女ら)の座るアンティーク調の棚にはレースやシルクの断片、琥珀色のリボンが丁寧に飾られ、より一層、人形たちの美しさを際立たせている。


さらに天井を見上げれば、山頂付近の急斜面にある岩の亀裂を精巧なステンドグラスが塞ぎ、それを突き抜けた七色の光が埃を舞わせながら、中央にある『ゆりかご』を神聖な祭壇のように照らしている。

山肌にあるため、太陽が低い位置にある時間帯だけ特定の角度から光が差し込み、内部を極彩色の光で満たす仕組みのようだ。


『ゆりかご』


それはかつて太陽が地上を照らしていた頃の、優美な赤ん坊の寝台を模していた。周囲には薄絹の天蓋が降り注ぎ、ステンドグラスの七色の光を複雑に透過させている。

重なり合うヴェールは繊細なレースで縁取られ、まるで天使の羽衣のようだ。

天蓋の裾は大きなリボンで結い上げられ、年月を経ているはずなのに不思議なほど純白の輝きを失っていない。


ゆりかごの中の彼女は、その柔らかなヴェールの守護の下でまるで「お迎え」を待つドールのように眠っていた。


「女――の子――いや、アニマ――か?」


息をすることも忘れ、キッドはただ、光の粒に縁取られた、眼鏡の下のその長い睫毛や、透き通るような肌に見惚れる。

夜の闇を溶かしたような漆黒の髪は毛先に向かうほどに深海のようなティールグリーンへと変幻し、ヴェールの影の中にあっても艶やかさを忘れていない。

彼女の纏うそのドレスはいつかお伽話で読んだ前時代の教養ある少女の装いのようで、白と深い翡翠色の布地が幾重にも重ねられた柔らかそうなフリルが華奢で小柄な身体を包んでいる。


「(この繊細なパーツの接合、信じられねぇ……。一体どうなってやがんだ?)」


その姿は、キッドがこれまで手にしてきたどんな精密機械よりも美しかった。


「……この子が『世界を救う鍵』……?」


今まで頭で考えていた全てが、その圧倒的な美貌を前にして消し飛んだ。


キッドは自身の頬を軽く叩き、乱れた呼吸を整える。

――見惚れている場合じゃない。

彼は自らの衝動を押し殺し、戦士に対峙するような、それでいて、愛する人を起こすような優しさを持って、ゆりかごの縁に手をかけた――。

【お知らせ!】

実はこの後、21:00に続きを投稿します!

物語が大きく動き出し、キッドが覚醒する熱い展開はそこからが本番です!ぜひ21:00にまた見に来てください!


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

ついに始まった第一話、楽しんでいただけましたでしょうか? 次回はついにヒロインとの出会い…!

もし続きが気になったら、ぜひブックマークと評価で応援していただけると、激務の合間に執筆している私の大きな糧になります……!

21:00の更新もぜひ楽しみにしていてください!!

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