Ch. 00『ゴミの塔の修理屋 ―世界を救う地図の起動―』
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操野形人と申します。
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打って、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
鋼鉄の残骸が折り重なる、凍てついた雪原。
かつて人類の栄華を支える巨大な工場地帯だったその場所は、見るも無惨な墓場へと変わり果てていた。
辺境の地・フリーランズ。
飛空挺により空から投棄される無数の金属ゴミと瓦礫は時を経て巨大な「ゴミの塔」へと成長した。
その積み重なった屑鉄の迷宮に、行き場を失くした者たちが断熱材や廃材を継ぎ接ぎして増築に増築を重ねた結果、そこはさながら雪国の城砦のような歪な高層都市へと変貌を遂げている。
その頂点――雲を突き抜けるようなゴミの山の最上部に、キッドの工房は居を構えていた。
周囲を冷徹な吹雪が叩きつけ、金属が軋む音が街中に響き渡る。
工房の外壁には、凍結防止剤や古い回路が剥き出しで貼り付けられており、それは遠目から見ると、今にも動き出しそうな「巨大な機械の心臓」のようにも見えた。
その歪な工房の中には常に微かな電気の焦げた匂いと、オイルの冷たい香りが漂っていた。
吹き荒れる吹雪とその独特な空気の中、キッドはレンチを握りしめ、冷え切った機械の腹をこじ開ける。
「あと少しで、心臓が鳴るはずだ」
キッドは錆びついた金属片を、まるで死人の骨を弔うかのように優しく拭き取った。
「お前ももっと早く生まれていれば、役目があっただろうにな」
誰に聞かせるわけでもなくそう呟くと、彼は迷いのない手つきで半田ごてを握り、失われた回路を繋ぎ直していく。
キッドは祖父から叩き込まれた「修理の鉄則」を思い出す。
『いいかキッド。機械を直すってのは壊れた部分をただ繋ぐだけじゃアねぇ。その機械が本来持っていた「意志」を今の時代に呼び戻してやることなんだ』
これは単なる修理作業ではない。凍りついた世界にもう一度「熱」を吹き込むための儀式のようなものだ。
厳格だった祖父の教えは今もキッドの手の中に息づいている。この冷え切った雪原で何年もかけてガラクタをオタカラに変えるスキルを磨いてこれたのも、すべては祖父のその言葉があったからだ。
風切り音と修理中の機械が発する「チッ……チッ……」という微かな通電音だけが工房内に鳴り響く。普通なら耳障りでしかないそのノイズたちも、無類の機械オタクであるキッド・バナードにとっては世界で一番安心できる「音楽」である。
工房の中は肩まで埋まるほどのガラクタの山で溢れてはいるが、キッドにとってこれらはゴミというわけではない。
「左の山は駆動系」
「右は配線とメモリ」といった具合に、彼独自の分類で整然……(と、彼自身は信じている)……と積まれている宝の山だった。
そんなオタカラたちの中央には、ひときわ古い型式のハロゲンヒーターが鎮座している。
修理の手を止め、キッドは古ぼけたヒーターに手をかざす。
「都市部の連中は造り物の光だけで一日を過ごすらしいけど……本物の太陽も知らねーままニセモノの光を浴びてるなんて、俺にはまっっったく理解できねぇ」
彼の指先はかろうじてヒーターの熱を拾っているが、その先には決して溶けることのない氷の海が広がっていた。
キッドの手で何百回と修理されているヒーターのオレンジの光はこの極寒の地で唯一「太陽の残滓」のように揺れている。
周囲の人間は空を見上げることをやめて久しい。太陽という光を失ったこの世界において、光を求めることは贅沢で、帝国や公国の"お偉いさん"だけの特権だった。
この究極の管理社会にあって、持たざる者はその日一日を生き抜くことすら困難だ。
だが、作業机に無造作に広げてある一枚の紙切れ——ラクガキにしか見えないその地図だけは、この困難な日々の中にあってもキッドに違う景色を見せていた。
「お前だけは、これに『何か』が宿っていると信じろ」――それがじいちゃんの口癖だった。
『世界を救う宝物の在処が描かれた地図』
バナード一族に伝わる眉唾物の伝承。
誰もが笑うお伽噺だ。
街の連中は祖父のことを「バカな夢想家」と呼んで笑い者にした。だが、キッドだけは知っていた。祖父の目が誰よりもこの凍った世界の先の「何か」を見つめていたことを。
現に、世界は死へと向かっていた。
太陽の光は年々その輝きを失い、偉い科学者たちが弾き出した寿命のカウントダウンは、残り百年にすら満たない。
地表から熱エネルギーが枯渇していく中、人々は抗うことをやめ、ゆっくりと凍てつく暗闇に沈んでいく世界の最期を受け入れていた。
「どうせ変えられない」
――街の連中の諦め顔を見るたび、キッドの胸はざらついた痛みを覚える。
だが、唯一、じいちゃんだけは違った。死の間際まで、その目は光を追い求めていたのだ。
(もしかすると、じいちゃんは諦めていなかったのかもしれない……)
もし、この地図の先にあるという『世界を救う鍵』が本当に存在し、この凍りついた地獄を終わらせられるのなら。
――たとえ世界中が笑おうとも、自分だけはそれを手に入れなければならない。
それが、かつて誰も信じなかった夢を抱き続けたじいちゃんへの、自分なりの弔いであり、遺志を継ぐということなのだから。
『キッド!キッド!』
「おい、アイボー。少しは静かにしろよ」
独り言のように声をかけた先には、キッドが数年かけて組み上げた小型ロボット『アイボー』がいた。
継ぎ接ぎだらけの球体の甲殻にあちこちから配線が飛び出した、お世辞にも格好いいとは言えない姿。だが、その瞳にあたるカメラアイだけはキッドの調整で驚くほど滑らかに動く。
アイボーはキッドが作業している机に向かって、いつもと違う奇妙な電子音をピコピコと鳴らした。
「……なんだ? お前もこの地図が気になるのか?」
キッドが半田ごてを片手に振り返った瞬間、修理中の機械が盛大に火花を散らした。ショートした電流が工房の配線を通じて机へ逆流する。
「くそっ、危ねぇ!」
慌てたキッドが急いで地図へ手を伸ばそうとするとアイボーが甲高い警告音を上げる。
逆流した電流がキッドが地図に手を触れるより早く、机に広げられた地図のインク——特殊なナノマテリアルが練り込まれていたのか——に吸い込まれていく。
アイボーのカメラアイが激しく明滅する。
キッドは目を疑った。
インクが熱に反応して再構成されている。これはただの地図じゃない。特定のエネルギー供給でしか開かない、光学投影式の暗号回路だ。
「じいちゃん……あんた、とんでもないもんを遺したな……」
地図のラクガキが幾何学模様の光として部屋中に投影される。
やがて光は収束し、浮かび上がったのは光の矢印。それは工房の壁を透過し、吹雪の向こう側、誰も足を踏み入れない禁忌の山頂を真っ直ぐに指していた。
「……あったのかよ。マジであったんだ……!」
キッドがようやく地図を手に取ると、アイボーはその光の矢印を追いかけるように小刻みに車輪を回転させた。まるで「行こうぜ、キッド」とでも言いたげに。
震える手で地図を握りしめ、キッドは吹雪の向こうを睨みつける。それは、誰もが笑ったお伽話を信じた夢想家の少年が伝説の継承者へと変わる瞬間だった――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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まだまだ物語はプロローグ……
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次回の更新もぜひ楽しみにしていてください!




