Ch.2『10チップの依頼と野良猫に隠された秘密・9』
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操野形人と申します。
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
戦いが終わり、娯楽室にはようやく静寂が戻った。
興奮が冷めないのか、ミナとキジトラ猫は「すごかったね!」と喜び合うように、散乱したビリヤード玉の間を跳ね回っている。
そんな中、砕け散った窓の隙間から、バサリと力強い羽音が響いた。一羽の漆黒のカラスが、何かを口に咥えて部屋へと舞い降りる。
「……カラス?」
二人が訝しげに顔を見合わせたその時、カラスは床に舞い降りると、咥えていた獲物をポンと置いた。カァカァと短く鳴き、割れた窓ガラスとリアたちを交互に見やる。
その仕草は、まるで『おい、お前たちがここを壊したのか?』と、住居の損壊について抗議しているかのようだった。
キジトラ猫は、あれほど頑なに離そうとしなかったあの宝石を、何の迷いもなくカラスの足元へと転がす。
猫とカラス。本来なら捕食者と被食者――天敵の関係にあるはずの二匹の邂逅を、リアとミナは固唾を飲んで見守った。
「なーなー、んなーなー、にゃあ……」
喧嘩が始まるのかと思いきや、猫はカラスの喉元に頭を擦り寄せ、親しげに鳴き声を交わしている。それはまるで、先ほどまでの激しい戦闘と、自分たちの身に起きた一連の出来事を懸命に説明しているかのようだった。
「カァカァ!」
猫の語りかけを聞き終えたカラスは、何度か小さく頷くと、先ほど置いていた獲物を再び口に咥え直す。そのまま、迷いのない足取りで二人の足元へとおずおずと近づき、獲物をコトリと置いて去っていった。
「……リアおねーちゃん! これ、ヒートチップだよ!」
ミナが床に置かれた小さな金属片を拾い上げ、驚きに目を見開く。
「どういう事ですか……?」
リアは眼鏡をずらし、転がっている数枚のチップと宝石を交互に見つめる。
一匹と一羽は熟年夫婦のように寄り添うと、こちらを一瞥したあと、『ついてきな』とでも言いたげに部屋の隅へ向かった。
たどり着いたのは、埃を被った漫画本が詰まった本棚の裏。リアが本棚を動かすと、壁と暖房器具の間に、小動物が通れるほどの隠し穴が開いていた。
「ここが、ふたりのおうち……?」
中を覗き込んだミナが息を呑む。
そこには、使い古された毛布やクッションが敷き詰められ、金属や石、色とりどりのガラス片といった彼らの「宝物」が山のように積み上げられていた。
そして、暖房器具の吹き出し口付近には、盗んできた大量のヒートチップが整然と並べられている。
なるほど、とリアは眼鏡のブリッジを押し上げた。
「仮説が確信に変わりました。カラスがヒートチップを調達し、休眠期間中の暖房を維持する。その対価として、猫はカラスが好む輝くものを集めてきていた……完璧な共存関係ですね」
ミナは寄り添う一匹と一羽の姿を見て、ふわりと柔らかな笑みを浮かべた。
「フリーランズの街は助け合いがモットーだって、ロンさんもいつも言っているけど……人間だけじゃないんだね。この厳しい街で生きるこの子たちも、こうして互いを支え合って生きてるんだ」
その言葉にリアもまた機械の胸部パーツの奥に静かな温もりを感じ取っていた。
「あー! あった! あったよ!」
ミナが声を上げ、山積みの宝物の中を指差す。そこには、猫の体の形に丸まった緑色の布があった。ミナが慎重に手繰り寄せ、ゆっくりと広げると、光沢のある生地に豪華な刺繍が浮かび上がる。
間違いなかった。それはシスターの祭衣だ。
「あら?」
リアは鼻先をわずかに動かし、嗅覚センサーを起動させる。
「この祭衣から……微量ですが、シスターと同じ成分の香気因子を検出しました」
「なるほど、そっか! このコ、シスターにすごくなついてたんだよ。もしかすると、だいすきなシスターのにおいがするものをジブンのおうちにもちかえって、アンシンしたかったのかもしれないね」
ミナの言葉に、猫が寂しげに一声鳴く。その瞳は祭衣への名残惜しさに満ちていた。
「ダーメ! これはシスターのダイジなものなの! かえさないときらわれちゃうんだからね!」
ミナが言い聞かせると、猫はシュンと項垂れ、観念したように動きを止める。
ミナが祭衣を丁寧に畳もうとした、その時だった。
コトリ、と軽い金属音を立てて、祭衣の中から小さな物体が滑り落ちる。
「……なんだろ、これ。チップ……?じゃないみたいだし」
銀色にメッキ加工された平たいカード。リアはそれを拾い上げ、網膜ディスプレイで即座に解析を開始する。
「これは……メモリーカード。何らかの記憶媒体です」
よく見ると、表面には精巧な竜胆の花の刻印が施されていた。
「シスターのかなぁ?」
「猫が集めてきたものが、たまたま祭衣の裏地に絡まっていた可能性が高いですね。……ですが、この刻印……ただの市販品には見えません」
リアはメモリーカードを自らのコートのポケットに深く収める。
それは、単なる「ビギナークエスト」の依頼で済まされない何かを孕んでいる予感がしたからだ。
「さて。帰りましょうか。予期せぬ波乱もありましたが、これで一件落着です」
「うん、クエストかんりょー! だね!」
二人は見送りに来た一匹と一羽を背に、しっかりと手を繋いで廃アパートを後にする。
初めての依頼。
その達成感と、予想外の結末に胸を暖かくしながら。
だが、その小さな竜胆の花が、二人に――ひいてはフリーランズの街全体に大混乱をもたらす引き金になることを、彼女たちはまだ知る由もなかった――。
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