Ch.2『10チップの依頼と野良猫に隠された秘密・8』
お読みいただきありがとうございます!
操野形人と申します。
本日は香港映画的アクションパートの後編!
色々詰め込んだスタイリッシュアクションになっている…はずなのでお楽しみいただけたら幸いです!
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
「はっはー!なるほど、そいつは確かに命を懸けるにはくだらなすぎる理由だな」
ウォンが吐き捨てるように言い放った瞬間、空気が変わった。彼は拳に熱い息を吹きかけると、地面を蹴って弾丸のように飛び出す。
リアは最小限の動作で身を屈め、その剛拳をやり過ごした。
ウォンの拳が背後の壁を直撃すると、鈍い音とともにレンガに拳型の穴が空く。
ただのならず者ではない。鍛え上げられた気功の使い手だ。
リアは即座にデータベース上の脅威レベルを「排除対象(A)」へと書き換える。
「ミナししょー、猫を連れて安全な場所へ」
「わかった! リアおねーちゃんもきをつけて……!」
ミナは猫を抱きしめたまま、背後の通路へと走り出す。
「逃がすかッ!」
ウォンが即座に追撃へ転じようと地を蹴る。
しかし、リアが放ったのは舞踏のステップのように優雅で、かつ無慈悲な足払いだった。
その一撃は、ウォンの重心を正確に崩す。顔面を床に叩きつけられたウォンが、怒りに顔を歪めて這い上がる。
「ここは通しませんよ」
リアは娯楽室の出入り口を背に、冷徹なまでの冷静さで言い放つ。
「……へへえ。少しばかり、お嬢ちゃんのことをみくびっていたようだな」
ウォンは腰の痛みを殺し、立ち上がると構えを変えた。先ほどまでの荒っぽい喧嘩殺法ではない。肩の力が抜け、呼吸が整えられた熟達した拳法の構え。
リアの網膜ディスプレイ上に、部屋内の障害物や敵の関節部位を示すグリッドが瞬時に展開される。
リアは周囲を見回し、即座に「娯楽室」にある物品の物理演算を完遂した。
彼女はタンゴの振り付けのように華麗な動作で傍らにあった椅子を引き寄せると、その背もたれを軸に身体を回転させた。
ウォンが再び距離を詰めてくる。
リアは椅子を滑らかにスライドさせ、ウォンの足元へ。不意を突かれた男は無様に転倒し、慣性のまま前方へ吹き飛ぶ。
「チッ、小細工を……ッ!」
態勢を立て直す間もなく、ウォンが拳による鋭い連続突きを繰り出す。しかしリアは、先ほどから手離さない椅子を巧みに操り、シールド代わりにしてその猛攻を全て受け流した。
「――カンッ!カンッ!カンッ!」
硬質な木と拳がぶつかる高い音が響く。
ウォンの拳が空を切るたび、リアは椅子を独楽のように回転させる。重い椅子がリアの手の中でまるで羽毛のように舞い、ウォンの打撃をことごとく無効化していく。
(……分析完了。先程の重い一撃から、手数を重視したラッシュスタイルへ移行していますね)
リアの網膜上の演算データが、ウォンの動きを的確に解読していく。連撃の速度は上がっているが、一発の重量は明らかに減衰していた。
(攻撃の威力を犠牲にして、私の防御網を突破しようという魂胆ですか。……実に短絡的ですが、今の貴方にはそれしか選択肢がない、ということですね)
リアは椅子を回転させる勢いを利用し、ウォンの拳をいなす。その瞳には、焦燥を募らせる男の姿が冷静に映し出されていた。
「どうしました? 貴方の拳法というものは、その程度ですか?」
舞踏会で踊るかのような余裕を見せるリアに、ウォンは歯を食いしばり、より一層荒々しい闘気を剥き出しにした。
再び、ウォンの怒涛の連打が襲いかかる。
椅子にヒビが入るのを確認すると、リアは間一髪で後方へ跳躍し、ビリヤード台の上へと舞い上がった。
「どうやら、その椅子も限界のようですね」
リアがそう呟くよりも早く、ウォンがビリヤード台の角を強烈な回し蹴りで叩く。台が激しく揺れ、的玉が舞い、キューが散乱する。
リアは宙を舞うキューを鮮やかに手中に収めると、勢いよく台を蹴って地面へ着地した。
その隙を見逃さず、ウォンが懐から鈍く光るナイフを引き抜く。
「踊りはおしまいだ、お嬢ちゃん! 」
「……なるほど。では、私も」
リアは手にしたキューをビリヤード台の縁に叩きつけ、パキリという乾いた音と共に半分に折る。
「少しお行儀が悪いですが」
彼女は折れたキューを軽快にくるりと回し、剣先をウォンの喉元へと向けた。フェンシングの構え――その洗練された姿勢に、ウォンは思わずたじろぐ。
「――ヤロウ、ぶっ殺してやるッ!!」
ウォンの野獣のような怒号が響いた。
不規則な軌道で放たれるナイフの刺突を、リアは折れたキューを剣に見立てて、最小限の角度でいなしていく。
それはもはや演算の領域を超え、未来の軌跡をあらかじめなぞっているかのような神速の防御だった。
激しい攻防の中、先ほどまでの二度の転倒で負った肩のダメージが、ウォンの動きを僅かに鈍らせる。ほんの一瞬、男の顔に浮かんだ苦悶の表情――リアのセンサーが、その「綻び」を逃さず捉えた。
「――隙、ありです」
リアがキューの先端でナイフの付け根を正確に突くと、銀色の刃が真上へと高く弾き飛ばされた。ウォンの視線が、無意識のうちに宙を舞うナイフを追ってしまう。
――そのコンマ数秒の迷いこそが、致命打だった。
リアは限界まで筋出力を引き上げ、右脚でウォンの鳩尾を正確に蹴り上げる。
宙に浮き、無防備になったウォンの身体。
リアは間髪入れず、折れたキューの先端をウォンの腹部――威力が最も一点に収束する「点」へと渾身の撞きを叩き込んだ。
「――っが、ぁ……ッ!?」
ウォンの身体はまるでビリヤードの的玉のように跳ね飛ばされ、部屋の窓ガラスを突き破る。
砕け散るガラスの破片と共に、ウォンの姿はフリーランズのゴミ溜まりの中へ消えていった。
静寂が戻った部屋の中。
リアは落ちてきたナイフを華麗にキャッチすると、くるりと手の中で遊ばせてから、そっと床に落とす。
「計算通りです」
彼女が背後を振り返ると、ドアの端から様子を窺っていたミナが宝石を咥えた猫と一緒に目を丸くして立ち尽くしていた。
「リアおねーちゃん……いまのすごかった!」
その言葉にリアは小さく微笑み、ようやく肩の力を抜き、ふぅと息を吐くのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
香港映画……というかジャッキー作品と言えばやはり椅子を使ったアクション!
今の若い読者さんたちにネタが通じるか些か不安ではありますが!
楽しんでいただけましたでしょうか?
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次回の更新もぜひ楽しみにしていてください!




