Ch.2『10チップの依頼と野良猫に隠された秘密・7』
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操野形人と申します。
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
レンシュエ一派の追っ手を一網打尽にしたリアたち。
ミナはリアの腕から降りると、宝石を咥えたままのキジトラ猫を愛おしそうに抱きかかえ、リアの前を歩いていた。
その宝石がよほど気に入ったのか、それとも手放せない何か特別な理由があるのか。
ミナやリアが何度受け取ろうと試みても、猫は頑なにその口を閉ざしたまま離そうとはしなかった。
迷路のように入り組んだ路地を、ミナの先導で進んでいく。
飲食店がひしめく「紅龍軒」周辺の通りに差し掛かったその時、キジトラ猫が暴れてミナの腕をすり抜けた。
「おっとっと!」
猫は数メートル先で足を止め、首だけで振り返って二人を一瞥すると、再び軽やかな足取りで路地の奥へと消えていく。
「どうやら……『ついてこい』と言っているようですね」
二人は顔を見合わせ、頷き合う。リアは猫の足跡を追うように歩調を速めた。
猫は紅龍軒を通り過ぎ、しばらく歩いた先にある寂れたアパートの前で足を止めた。
リアはアパートの無機質な外壁を見上げ、センサーを働かせる。
「ここは……アパートのようですが、熱源反応が皆無です。人の気配すら感じられませんね」
不思議そうに小首を傾げるリアに、ミナは少しだけ寂しげな表情で説明を始めた。
「ここはね、ロンさんのブカのワンヤおにーちゃんがとりしきっていたアパートだよ」
ミナは錆びついたアパートの扉を見つめ、記憶を辿るように言葉を続ける。
「ここからすこしはなれたとこに、むかーし、キカイをユシュツするためのミナトがあったの。いまはそこがフリーランズの『だいどころ』になってるんだけど、ミナトのカンリのためにワンヤおにーちゃんやじゅーにんたちはみんなそっちにイジューしちゃって……ここはだいぶまえにもぬけのカラになっちゃったんだ」
「なるほど……今はただの廃墟、というわけですね」
「そ」
ミナが小さく頷き、古びた玄関へと一歩を踏み出す。
「それにしても、こんなばしょになにがあるんだろう?」と呟きながら、廃アパートの闇へと消えていく猫の背を、二人は緊張を孕んだ足取りで追いかけた。
二人は猫に従い、アパートの階段を上へ上へと登っていく。
開け放たれた扉からは置き去りにされた家具たちが覗く。埃は積もっているものの、まるで住人たちがつい先ほどまでそこで笑い合っていたかのような、静かな生活の気配が残っていた。
「にゃあ」
猫がとある部屋の前で足を止める。
そこには『娯楽室』という古びた札が掛かっていた。
リアが扉を開くと、全自動麻雀卓やビリヤード台、色褪せた漫画が詰まった本棚が、時を止めたまま埃を被って鎮座している。
「ここが……目的地? でも、何があるというのです?」
リアが周囲を警戒し始めた、その瞬間だった。
背後の闇から、乾いた拍手の音が響き渡る。
パチ、パチ、パチ――。
二人が慌てて振り返ると、そこには先ほどまで執拗に追ってきた一派の頭目、ウォンが立っていた。
手下を一人も連れていない。その余裕が、かえって尋常ならざる殺気を放っている。
「はっはー! まさかアイツらを一網打尽にするたぁな! とんだお転婆なお嬢様たちだぜ!」
「ウォン……!」
ミナが猫を抱きしめて後ずさる。
リアは瞬時にミナを背にかばった。
「どうしてここが……?」
リアの問いに、ウォンはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて語り出す。
「どうしてだって? ……ミナ、お前が俺たちの前に飛び出してきたあの時よ。念のためにな、背中に発信機を投げつけておいたのさ。保険ってのは、いつだって大事だからなァ!」
ミナが慌てて背中をまさぐると、服の継ぎ目に小さな発信機がへばりついていた。
「ごめん、リアおねーちゃん……」
「いいえ、ミナししょー。貴方のせいではありません」
リアはミナから受け取った発信機を無造作に床へ投げ捨て、そのヒールの底で粉々に踏み潰した。
「さァ、宝石を渡してもらおうか。なぁに、それさえ渡せば今日のところは帰ってやる。賢そうなメガネの嬢ちゃんなら、どっちが『賢い』選択か分かるよな?」
リアは静かに眼鏡のブリッジを押し上げた。
「そうですね。演算するまでもありません。宝石という物質そのものには興味がありませんから。……貴方に渡して、この場を平和的に収めるのが、最も論理的な解でしょう」
「リアおねーちゃん……!」
ミナが不安げにリアを見上げる。しかし、リアの瞳は揺らいでいない。
「はっはー! 分かってんじゃねぇか! 話が早くて助かるぜ。それじゃあ、さっさと――」
「ですが」
上機嫌に手を伸ばすウォンを、リアが氷のような冷徹さで遮った。
「そういう訳にはいかないのです。実に論理的ではなく、馬鹿馬鹿しく、私の本来の目的からは逸脱した……個人的な理由なのですが」
ウォンは怪訝そうに眉をひそめた。
「……賢いと思ってたんだがな。一応聞いておこうか。何故だ?」
リアは腰を落とし、戦闘の構えを取る。その瞳に、機械的なデータではない、熱い「意志」の火が灯った。
「私の大切な人なら、きっとそうはしないからです」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日はカンフーアクションパート中編ということで静のパートでしたが、次回ついにウォンとの激戦です。
派手めのアクションにする予定ですのでご期待くださいませ。
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次回の更新もぜひ楽しみにしていてください!




