Ch.2『10チップの依頼と野良猫に隠された秘密・6』
お読みいただきありがとうございます!
操野形人と申します。
今回は香港映画風アクションパート前編!
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
リアはミナを抱きかかえたまま、翠のスカートを優雅になびかせて跳躍した。
黒いローファーのつま先が段ボールの山を軽やかに捉える。
踏み切った瞬間、わずかにたわんだ段ボールが弾き出す反動を推進力に変え、彼女は空を舞う。
それは舞踏のステップを彷彿とさせる鮮やかな軌跡だった。
「リアおねーちゃん、すごーい……!」
「……喋らないで。舌を噛みますよ」
リアは短く注意しつつ、背後から迫るレンシュエ一派の追っ手を一瞥する。
彼らは障害物など意に介さず、積み上げられた段ボール群をタックルで突き崩しながら突進してくる。その暴力的な騒音に、食料店の店主が慌てて店先へ飛び出してきた。
「おい!何するんだ!お前たち!ああ……!売り物が台無しじゃないか!もうお前たちには売ってやらないからな!!」
店主の怒号はすぐに背後へ遠ざかり、ドップラー効果のように小さくなっていく。
リアは心の中で店主に謝罪を捧げつつ、さらに加速した。
「リアおねーちゃん、あそこ!ネコだよ!」
ミナが指差した先。迷路のようなビル上層の通路、その縁を、キジトラの影が宝石を咥えて悠々と歩いていた。
背後では追っ手たちの怒号が響き、「いたぞ!」「猫だ!獲れ!」という殺気立った声が路地に反響する。
「まずいですね」
リアの蒼い瞳の中で、無数の射線と障害物の衝突判定が高速で書き換えられていく。
彼女は一瞬で最適なルートを弾き出し、ミナを抱き直した。
「飛びます。しっかり掴まっていてください」
「えっ、とぶって……どうやっ……わわっ!」
リアは助走なしで踏み切り、路地裏の雑然とした配線の束を足場にして壁を蹴った。
三角飛びの要領で反対側の壁をさらに踏み抜き、物理法則を軽やかに無視した軌道で、あっという間に猫が待つ階層へと到達する。
「いったーい! した、かんだぁ……!」
「だから言ったでしょう。警告はしました』
着地の衝撃を完全に相殺し、リアは呆れ顔でミナを一瞥する。
目の前にはキジトラの猫。突然現れた立体機動の来訪者に、猫は毛を逆立たせて威嚇の声を上げた。
「リアおねーちゃん、だいじょうぶ。ここはミナにまかせて!」
ミナの力強い瞳とアイコンタクトが交わされる。リアは頷き、優しくミナを地面に下ろした。
「ほら、おいで。わたしだよ。アンタのしってるミナだよ。おやつ、あげたこともあるでしょ……?」
ミナは猫を驚かせないよう、祈るような手つきで距離を詰める。スンスンと鼻を鳴らした猫は、ミナから漂う匂いに覚えがあったのか、ゆっくりと威嚇の声を収めていった。
ミナの指先がその温かな背中に触れようとした、その刹那だった。
「――いたぞ! そこだ!」
荒い息遣いと共に、追っ手たちが通路の先からなだれ込んでくる。
彼らは逃げ道を完全に塞ぐように並ぶと、獲物を追い詰めた獣のような下卑た笑みを浮かべた。
「もう逃げ場はねぇぞ、お嬢ちゃんたち!」
ミナは素早く宝石を咥えた猫を抱きしめ、リアの背後に身を隠す。リアが即座に迎撃態勢へと移行しようとした、その時。
ミナが通路の脇に転がっていた錆びついたオイル携行缶を掴み取った。
「リアおねーちゃん、うえ!」
ミナが指差した先、天井から剥き出しの太い配線が垂れ下がっている。
リアはミナの意図を瞬時に演算し、確信した。
彼女は猫とミナを抱き直すと、迷いなく配線を掴み、重力を置き去りにするような跳躍を見せる。ワイヤーアクションの如く手下たちの頭上を鮮やかに越え、彼らが呆然と空を見上げている隙に、鮮やかに着地を決める。
「リアおねーちゃん、そのまますすんで!そこをまがるとヒジョウカイダンがあるから!」
指示通り、リアは迷いなく角を曲がり階段へ飛び込む。
踊り場には『危険!立ち入り禁止!』と書かれた色褪せた看板が放置されていた。
手下たちが「逃がすな!」と血相を変えて階段へ殺到した、その瞬間。
「――いまだ!!」
ミナがリアの腕の中から身を乗り出し、携行缶の中身を階段の踊り場へと一気にぶちまけた。
先頭の男が悲鳴を上げて滑り、後続がドミノ倒しのように重なっていく。揉み合う男たちの総重量に、長年放置されていた床板は耐えきれなかった。
耳をつんざくような軋みと共に、階段がごっそりと崩落する。
「「「うわぁぁぁぁッ!?」」」
追っ手たちの叫び声は、下の階の闇へと吸い込まれていった。
二人は沈黙した残骸を見下ろす。
リアが安堵の息を吐きながらミナを見ると、彼女は先ほどまでの緊迫感が嘘のように、イタズラっぽく口端を吊り上げて笑った。
「まえにきたとき、このビルのオーナーがいってたの。『このビルのヒジョウカイダンのほう、ガタがきていてオンナコドモならとおれるけど、オトナのオトコがとおるともうたえられない』って」
「……確信犯ですか。ミナししょー、貴方は本当に……」
リアは呆れつつも、その見事な機転を認めざるを得ないといった様子で小さく微笑んだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
楽しんでいただけましたでしょうか?
次回、アクションパート後編では香港映画でお馴染みのあのシーンも!?
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次回の更新もぜひ楽しみにしていてください!




