Ch.2『10チップの依頼と野良猫に隠された秘密・5』
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操野形人と申します。
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
二人がフリーランズの街に足を踏み入れると、街の空気が一変していた。
いつもの喧騒は影を潜め、威勢の良いはずの商店通りの店主たちまでもが、店の奥へと身を縮めて息を殺している。
「……周囲の熱源反応と音声データの収集率が著しく低下しています。この静寂、ただ事ではありませんね」
リアが冷静に分析を口にする隣で、ミナは周囲を警戒するように見回す。
ふと、室外機の下に小さな影を見つけたミナが、その裏に隠れていた少年に声を掛けた。
「ねえ、なにがあったの?」
少年は言葉を発する代わりに首を勢いよく横に振り、指先でミナたちの背後を指し示した。
二人が視線を向けると、そこには異様な光景があった。
お揃いの趣味の悪い紫のペイズリー柄のシャツを着て、街を我が物顔で闊歩するガラの悪い長髪の男たちの一団。
彼らが通り過ぎるたび、路地裏の住民たちが恐れをなして道を譲っていた。
「げっ……まって、リアおねーちゃん!」
ミナが慌ててリアの裾を掴み、路地の影に身を隠す。
「アイツら、このマチのウラのボス『レンシュエ』のテシタだよ! ……あいつのソシキにかかわると、チップだけじゃすまないんだから。おねがいだからいまはかかわらないで!」
震えるミナの言葉に、リアは蒼い瞳の演算回路を高速で回転させた。この街の不穏な裏側の正体に、早くも触れてしまったらしい。
『暴力』と『支配』を象徴するその名を深くそのデータベースへとインプットする。
男たちは一軒の民家の前で足をとめると、鍵の閉まった玄関を躊躇なく蹴破った。
ひしゃげた扉の向こうの家主へ、下卑た罵声を浴びせる。
「おいおい、チュンさんよォ〜! 返済期限はとっくに過ぎてんだよ! とっとと耳揃えて返してもらおうか!? ああん!?」
一団のリーダー格、パーマの長髪にサングラスという出立ちの男が部下から受け取った鉄パイプで楽しげに玄関の梁を砕き始めた。
中から慌てふためき、痩せぎすの男——チュンが転がり出てくる。
「や、やめてください! 家を壊されちゃあ、次の休眠期間を生きられない! 吹雪で死んでしまいます!」
「おー、それは大変だなぁっと!!」
笑いながら梁に最後の一撃を加えたサングラスの男は、改めてチュンに向き直るとヘラヘラとした笑みを消し、どすの効いた声でチュンの首根っこを掴み上げた。
「あんま黒社会を舐めるなよ。チュンさん、アンタ……借金が帳消しになるくらいのお宝、隠し持ってるらしいじゃねぇか」
「そんな! あれは死んだ女房の形見で……! それしか残ってないんです! 勘弁してください!」
お構いなしに、男は顎で部下に家探しの指示を出す。間もなく「ありました、ウォン兄貴!」という声とともに、部下が小ぶりの石を掲げて戻ってきた。
リアは視界を光学ズームし、その対象を解析する。……高純度の宝石だ。ただの石ではない。
「やめてください! 返して……返してくれ!」
チュンはなりふり構わずウォンと呼ばれた男の腕をすり抜け、部下から形見を奪い返そうともみ合う。その弾みで、宝石は手から滑り落ち、高く宙を舞った。
宝石が描いた弧は、ウォンの一団と、リアたちが潜む影の中間地点へと吸い込まれていく。
その瞬間、世界から音が消えた。
宝石が路面に触れるよりも早く、影から飛び出した影があった。鈴の音とともに現れたのは、一匹のキジトラ猫。
「にゃあ」と一鳴きすると、おもむろに宝石をその口に咥え込んだ。
「「「あーーーーーーーーっ!!!」」」
その場にいた全員の叫びが重なる。
思わず通りへ飛び出してしまったミナの悲鳴と、ウォン一味の咆哮が、街の静寂を木っ端微塵に粉砕した。
悲鳴に驚いたキジトラ猫は、宝石を咥えたまま、目にも止まらぬ身のこなしで駆け出し、あっという間に街の喧騒へと消えていく。
静まり返った通りで、ミナとウォン一味が呆然と立ち尽くす。ふと、ミナとウォンの視線が真っ向からぶつかった。
「あははー……ど、どうもぉ……」
ミナは乾いた笑いで誤魔化しながらその場を離れようとするが、ウォンの野太い一喝が彼女を足止めする。
「おい、待てコラ! 二つ縛りの亜麻色の髪……おい、お前はミナだな? ロン・クーのところに頻繁に出入りしているっていう」
「やばっ」と、ミナの顔が本格的に引き攣る。
「ははーん、大方、別口から回収の依頼でも受けたか? 俺らんとこ以外からも随分と借金をしているようだからなぁ」
「ち、ちがうよ! わたしはただのとおりすがりで……そ、そう! ネコがかわいくて、ついとびだしちゃっただけ……!」
ミナの必死の弁明など、ウォンには鼻息一つで切り捨てられた。
「そんな下手な言い訳が通じるかよ。……どけ。あの宝石を手に入れるのは、俺たち『レンシュエ(冷血)』一派だ」
ウォンが顎をしゃくると、十人の集団から五人が、獲物を狙う獣のような面持ちでミナを取り囲む。
「あわわわわ……!」
「ミナししょー、思考を切り替えて。逃げますよ!」
影から様子を伺っていたリアだったが、即座に状況を危険と判断。飛び出すと同時に怯えるミナを颯爽と抱き上げ、猫が消えた路地へと一直線に駆け出した。
「逃がすな! 追え!!」
ウォンの咆哮を合図に、荒くれ者たちの足音が轟音となって街に響き渡る。
街を駆け抜ける二人。
しかし、レンシュエ一派の追手は、ただの乱暴者ではなかった。彼らは勝手知ったるフリーランズの街を最短距離で強引に突き進んでくる——。
「リアおねーちゃん、まえ!」
目の前には食料店の巨大な段ボールの山。逃げ道は完全に塞がれていた。
獣のような咆哮が背後から迫る。リアは抱えたミナをしっかりと抱き寄せると、思考回路を全開にした。
「……演算完了。ここからは、少しだけ無茶をします」
二人の影が、段ボールの山に向かって宙を舞った——。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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次回からついに始まるカンフーアクションパート!!
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