Ch.2『10チップの依頼と野良猫に隠された秘密・3』
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操野形人と申します。
本作は【SFファンタジー人形劇】と銘打った、凍てつく大地を舞台に熱血漢のメカニックの少年とアンドロイドの少女が太陽を取り戻す物語となっております。少し不器用な彼らの旅をぜひ楽しんでいってください!
精肉店の仕事を早めに切り上げさせてもらったミナと共に、リアは再びロンの理髪店へ戻る道を歩いていた。
リアは道中、キッドの事を少し上の空で考えていると、その内心を見透かしたようにミナは急にニヤリと笑って切り出した。
「ねえ、おねーちゃん。キッドのコイビトなんでしょ?」
ミナの何気ない問いに、リアは一瞬だけ歩みを止めた。
「……恋人、ですか。私たちは確かに『愛』という契約によって結ばれていますが、それはきっと人間同士の恋愛感情とは質が異なるものです。私が彼を恋人と定義するのは、僭越というものでしょう」
「はいはい。よくわかんないど、ミナがいってるの、そういうことじゃなくてさ」
ミナは呆れたように肩をすくめた。
「キッドっていいやつだけど、オヒトヨシすぎるし、いつもチップないじゃん。ミナそういうのなんていうかしってるよ。『カイショーナシ』っていうんだよね」
「……その指摘には同意します。キッド様は馬鹿ですし、先々のことなど何も考えていない浅慮の極みです。基本的に考えなしの行動ばかりで、私の演算能力を以てしても困惑させられることばかりです」
リアの淡々とした酷評に、ミナは目を丸くして身を乗り出した。
「えっ、リアおねーちゃん……それって、褒めてるの?」
「はい。褒めています、もちろん」
リアは涼しい顔で即答した。
「論理的ではありませんし、生存戦略としても最悪です。ですが、あの馬鹿な直感と向こう見ずな優しさこそが、彼の……キッド様の何よりの長所なのですから」
リアのあまりに真剣な口調に、ミナはあいた口がふさがらないといった様子で呆れ返る。
「……ミナね、これもしってるよ。そういうおとこにほれるといっしょーくろーするって!」
呆れ顔のミナと、どこか誇らしげに胸を張るリア。
そんなやり取りの最中、二人の視界にロンの理髪店の看板が飛び込んできた。
「ごめんくださーい!」
扉のベルを軽やかな音色に変え、ミナは店内へとスキップ混じりに滑り込む。ロンはサングラスの奥から二人を交互に見やると、ふっと含み笑いを浮かべた。
「おう、来たな。……なるほど、そういうことか」
納得したように頷くロンに対し、リアは感情回路を切り替え、背筋を正してお辞儀をする。
「先程ぶりです、ロン様」
「確かに、ミナがいるなら心強ぇ」
ロンの言葉に、ミナは得意げに鼻を鳴らした。
「でしょー!ロンさんはわかってるね!」
一方で、リアは先ほどまでの自身の認識を改めるようにじっとミナを見つめる。
悔しいが、この少々生意気な子供が街の実力者であるのは事実のようだ。
「……ミナさんがそこまでの実力者だとは、私の演算値では弾き出せませんでした」
「ミナししょー!」
「……それは大変失礼いたしました。……ミナししょー」
リアが真面目な顔で訂正すると、ミナは満足げに胸を張る。火花を散らすような二人の様子を見て、ロンはカカッと豪快に笑った。
「ちょっと待ってな」
店の奥へと引っ込んだロンは、ずしりと重そうなファイルをいくつか抱えて戻ってくる。
「それで? どれにするんだ? 好きなのを選びな」
テーブルに広げられたのは、この街に寄せられた全依頼【クエスト】のリスト。
リアとミナは肩を寄せ合い、ページを繰り始める。
「さーて、どれにしよっかな!」
ミナは軽快に依頼リストをめくっていく。
「これなんてどうですか? 報酬200チップ」
「さいけんかいしゅうだいこー……ダメだよ! これはまちでもイチバンこわいれんちゅーのところにいかなきゃいけないし……!」
リアは瑠美から言い渡された『荒っぽい仕事は控えるように』という釘を思い出す。自分の戦力なら街のゴロツキなど容易く制圧できるが、子供を危険に晒すわけにはいかない。
「……そうですね。やめましょう」
「そうだよ! ミナは、ずのーろうどうたんとうなの!」
ミナが再びページをめくる。だが、あるページで彼女の動きがピタリと止まった。
「こ、これなんかいいんじゃないかな……!?」
明らかに挙動が不審だ。リアは訝しみながらもリストに視線を落とす。
『猫探しおよび、教会から盗難された聖具の回収と返却』
他の高報酬な依頼と見比べれば、難易度が格段に見劣りする依頼だ。
「この猫は血統書付きの希少種、あるいは聖具というのは伝説的な聖遺物なのでしょうか」
ミナがわざわざこんな低報酬そうな依頼を選ぶはずがない。リアは蒼い瞳の奥で、彼女がこの依頼を選んだ合理的理由を高速で演算する。
「そ、そうだよ! このネコはゼツメツキグシュのすっっごいネコなの! それにこのセーグも、おーむかしからつたわるすっっごいオタカラなんだから!」
……明らかにおかしい。しかし、この街の事情通であるミナがそう言うのなら、何か特殊な事情があるのだろう。リアはひとまず演算を保留した。
「ロンさん! このクエスト、ひきうけるよ!」
「別にいいが……その依頼は……」
ロンが何か重要なことを言いたげに口を開くが、ミナはそれを遮るように叫んだ。
「おっけー! ひきうけたからね!」
ミナは何かを隠すようにリアの手を取り、理髪店を飛び出した。
「ミナさ……ミナししょー、一体どこへ!」
「キョーカイだよ! そこがクライアントだからね!」
嵐のように過ぎ去っていく二人を、ロンは「やれやれ」と苦笑で見送る。ふと、ミナが先ほどまで小さな手で必死に隠していた依頼書の隅に目をやった。
達成報酬。
『10チップ』
そこには、淡々とそう記されていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
楽しんでいただけましたでしょうか?
たったの10チップ…次回、ミナの真意が明らかに!?
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