アリスの秘策と、蘇る神様
キシアの海岸近くに設けられた天狗たちの拠点で、はじめ達を歓迎する盛大な宴が開かれていた。
しかし、神としての信仰心を得られず弱体化しているマナは、相変わらず顔色が悪く、ぐったりと砂浜に座り込んでいた。
対照的に、カエデはすっかりこの異様な空間に打ち解けていた。
天狗たちが運んでくる、毒々しい色をした怪しげな料理を両手に持ち、「うまい、うまい!」と満面の笑みで平らげている。
その見事な食べっぷりを見て、常に周囲を警戒していたクレアも「毒は入っていないようだな……」と少しだけ警戒心を解いたようだった。
そんな中、いらじのコックピットから降りてきたアリスが、具合の悪そうなマナを興味深そうに観察していた。
「……あんた、辛いのかい?」
アリスが、どこか意地の悪そうな声でマナに尋ねた。
「見て分からないの? ……本当に陰湿な女ね」
マナが恨めしそうに睨み返すが、アリスは「クックック」と喉の奥で笑った。
「すまないね。ずっと研究ばかりしてきた人生だから、どうにも人の気持ちには鈍感でね」
その嫌味な言い回しに、マナの額にピキッと青筋が浮かんだ。
「あんたねぇ……!」
肩で息をしながら文句を言おうとしたマナの口元に、アリスがスッと人差し指を当てて物理的に言葉を遮った。
「……なんのつもりよ」
元気なく反抗するマナに対し、アリスは顔を寄せ、声を潜めて耳打ちした。
「あんた、『鍵』を持ってるだろ。それをちょっと出してみな」
「なっ……! なんであんたが鍵を!」
驚愕したマナが思わず大きな声を出そうとした瞬間、アリスが素早くマナの口を両手で塞いだ。
「シーッ。こんな所で大きな声を出したら、変に思われるだろう?」
アリスが視線で周囲を促す。
幸いなことに、天狗たちはカエデの余興に夢中でこちらには気がついていないようだった。
見れば、カエデが自分の顔ほどもある巨大な器になみなみと注がれた『得体の知れない液体』を豪快に一気飲みしており、周囲の天狗たちから「おおおおっ!」「愛の飲みっぷりだ!」と割れんばかりの称賛を浴びていた。
「どうやら、気づかれなかったようだね」
アリスは口元を歪め、不敵な笑みを浮かべた。
「あんたの仲間だった『アンナ』と、同じような事をするのさ」
(アンナ……!?)
横で話を聞いていたはじめは、心臓が跳ね上がった。
なぜ敵国の調査員であるアリスが、アンナの事を知っているのか。
思わず声を出して問い詰めそうになったが、アリスの鋭い視線に「今は黙っていろ」と目で静止された。
「とりあえず、鍵を出してごらん。私を信じてね……クックック」
相変わらず嫌らしく笑うアリス。
マナは訝しんだものの、この気だるさから解放されるならもうどうにでもなれといった感じで、渋々ながら懐から淡く光る『鍵』を取り出して差し出した。
アリスはそれを見ると満足げに笑い、鍵に手をかざして何やら聞き慣れない呪文のようなものを唱え始めた。
すると、鍵はポゥッと淡い光を放ちながら、なんとマナの体内へとゆっくり吸収されていったのだ。
次の瞬間。
「ひゃんっ!?」
マナが突如として、ひどく変な声を上げてその場からピョーンと飛び上がった。
「んん?」
その奇声に、まんじゅうを口にくわえたカエデが何事かとこちらを振り返る。
クレアもスッと目を細め、少し警戒した視線を送ってきた。
「あー……びっくりした!!」
着地したマナは、先ほどまでの死にそうな顔が嘘のように血色が良くなり、キビキビとした動きで自分の体をペタペタと触り始めた。
明らかに体力が全回復している。
「アリスちゃん、今、何をしたの!?」
マナが目を丸くして尋ねる。
横で見ているはじめも、一体何が起こったのか全く分からずにキョトンとしていた。
アリスがその種明かしをしようと口を開きかけた、その時だった。
「皆の者、静まれい!!」
宴の喧騒を切り裂くように、黄天狗のよく通る声が響き渡った。
「長老様のお越しだ!!」
黄天狗の案内に従い、キシアの天狗たちを束ねる『長老』が、ゆっくりと宴の席へと姿を現す。




