光の道と、数珠繋ぎの旅立ち
「少年! 旅立ちの前に、さらなる愛の絆を深めようではないか!」
昨夜の悪夢が具現化したかのような爽やかな声と共に、白天狗がはじめ達の前に姿を現した。
はじめは条件反射で数歩後ずさり、身を護るように両腕でバツ印を作った。
「悪いが、これ以上の『愛』とやらは、俺の精神が持たない……!」
「ハハッ、気にするな。今日はそんなことではない」
白天狗ははじめの警戒を意に介さず、朗々と提案した。
「キシアにいる我々の同志達に、愛の先遣隊が向かうと連絡を取っておこうと思ってな」
「連絡? こんな場所からどうやって……」
「見たいのかい、少年?」
「絶対に、一秒たりとも見たくない」
はじめが食い気味に拒絶しようとしたその時、横からカエデが目を輝かせて割り込んできた。
「見たい見たい! はじめちゃん、天狗さんの秘密、見に行こうよ!」
「おい、カエデ! 俺はいいって――」
「ほら、はじめちゃんも行くの!」
はじめの腕を力一杯掴んだカエデの圧倒的な「圧」に押され、はじめは引きずられるようにして海岸へと連行された。
波打ち際に着くと、白天狗は懐から横笛を取り出し、静かに唇に当てた。
ピーヒョロロ、ピロリ……。
奏でられる音色はどこか規則正しく、短音と長音の組み合わせがまるで精巧な暗号のように響く。
「へぇー、すごい! これで遠くの人と話せるんだねー」
カエデが感心したように拍手する横で、はじめは「笛を吹いているだけの変態」にしか見えず、全く興味が持てないまま虚無の表情で水平線を眺めていた。
集落の広場に戻ると、現実的な問題が浮上した。
「……ところで、あの光の道を通るにしても、どうやって移動するんだ?」
クレアが海へと伸びる光の線を指差して問う。
「キシアまで徒歩で渡るとなれば、かなりの日数がかかる。
野営の場所も、ポータルの道がいつまで維持できるかも分からない状況では、安心はできないぞ」
「それに関しては問題ない」
白天狗が自信満々に胸のポンポンを揺らした。
「昨夜の愛の儀式によって、ポータルと少年の間には強固な魂の結びつきができている。
少年がポータルの陣の上に立ち、『移動したい』と強く念じれば、高速で海の道を滑走できるようになっているのだ」
「……つまり、私がはじめに掴まっていればいいのかい?」
いらじのハッチから顔を出したアリスが尋ねる。
「左様。少年を中心に、直接掴まるなりロープでお互いを縛るなりして、『物理的に繋がって』さえいれば、少年の加護を受けて共に移動できる」
白天狗がそこまで説明したときだった。
『ブウウウウウウン……ッ!!』
突然、いらじが昨日以上の激しい雄叫びを上げた。
(はじめに捕まって移動するなど、まっぴら御免だ!)と言わんばかりの激しい拒絶反応である。
「やれやれ……。これじゃ、いらじは一旦しまっていくしかなさそうだね」
アリスが困ったように笑いながら、収納の魔術で暴れる巨大な茄子を収納した。
(なぜ俺は、茄子の化け物にここまで恨まれているんだ……。まあ、あの巨体にしがみつかれても困るけどな)
はじめは心の中で毒づきながら、出発の準備を始めた。
カエデは名残惜しそうに、「バイバーイ! 美味しい実、ありがとねー!」と変態天狗達に手を振っている。
アリスは、病弱な体を考慮してクレアがおんぶすることになり、道中振り落とされないよう太いロープでクレアの体にしっかりと固定された。
最終的な並び順は、先頭にはじめ、その後ろに掴まるマナ、さらにカエデ、そして最後尾にアリスを背負ったクレア。
全員が一本のロープで数珠繋ぎに結ばれた、奇妙な姿が完成した。
「……本当に、この上に立って念じるだけでいいんだな?」
はじめがポータルの光る陣の上に立ち、白天狗に確認する。
「そうだ。愛の赴くままに念じろ。道は開かれる」
はじめが目を閉じ、海を越えるイメージを強く念じ始めた。
しばらくすると、足元から温かい脈動が伝わり、重力から解き放たれるような浮遊感が全身を包み込んだ。
「お達者でなー!」「愛を忘れるなよー!」
周囲で見守る天狗達の声が遠ざかっていく。
はじめ達の身体は徐々に淡い光に包まれ、次の瞬間、光の道に沿って爆発的な加速と共に海へと放り出された。




