白のレオタードと、甘い声の赤天狗
子供の天狗に案内され、オベリスクの横にある白天狗の屋敷(というよりも、立派な天幕のような場所)へと足を踏み入れたはじめ達。
「よく来てくれた。さあ、まずはこれを身につけてくれたまえ」
白天狗は待ち構えていたように満面の笑みで頷くと、一枚の布地をはじめの目の前にスッと差し出した。
それは、女性用の**『白いレオタード』**だった。
しかも、ただのレオタードではない。指が透けるほどの極めて薄手の生地で作られており、背中からお尻にかけてのラインが丸見えになるような、あまりにも際どすぎるシロモノであった。
「…………は?」
はじめは自分の目を疑った。
「儀式において、愛のエネルギーを最大限にポータルへ注ぎ込むための正装だ。さあ、着替えたまえ!」
親指を立てて爽やかに笑う白天狗。
「絶対にイヤです!!」
はじめはレオタードを思い切り突き返し、即座に、かつ鼓膜を揺らすほどの大声で否定した。
「おや……? 先ほどの広場で、私から儀式の説明をしっかりと聞いたのではないのか? 君がこれを着てくれないと、ポータルを開くためのエネルギーが足りず、困るのだが……」
白天狗がお面の奥で不思議そうに首を傾げる。
適当な空返事をしてしまったツケが、ここに来て最悪の形で回ってきたのだ。
「聞いていようが聞いていまいが、俺は断固とした覚悟を持って、絶対にイヤです!!」
はじめは一歩も引かず、鋼の意志で主張した。
こんな変態の布切れを着るくらいなら、死んだ方がマシだ。
「ふむ……困ったな」
白天狗は腕を組み、しばらく唸るように考え込んでいた。
やがて、何かを閃いたように顔を上げると、入り口に控えていた子供の天狗に向かって指示を出した。
「『赤』を呼んでこい」
子供の天狗が慌てて駆け出していく。
その後、屋敷の中にはなんとも言えない、非常に気まずい沈黙が流れた。
はじめが胃を痛めて立ち尽くす中、カエデは暇を持て余したのか「何か食べようっと」と自分の空間収納をゴソゴソと漁り始めた。
しかし、道中で食糧をすでに全部食べてしまっていたことに気づき、「なにもない……」と肩を落としてひどくしょんぼりとしている。
やがて、バサッと天幕の入り口が開き、子供の天狗が一人(?)の人物を連れて戻ってきた。
「白、なんの要件だ?」
現れたのは『赤天狗』だった。
顔には天狗のお面、胸のポンポン、サイハイソックス、そしてビキニパンツという基本ファッションは白天狗と完全に同じだが、身につけている布地がすべて『赤色』で統一されている。
さらに、白天狗以上に黒光りした、ボディビルダー顔負けの凄まじく鍛え上げられた肉体の持ち主であった。
しかし、その隆々とした筋肉や変態的なビジュアルとは裏腹に、赤天狗の口から発せられた声は、まるで美男子が女性を口説き落とす時に使うような、とろけるように『甘く色気のある声』だった。
(やっぱり、ただの変態の集まりだ……!)
はじめはブルマの長老に続き、この甘い声のマッチョ赤天狗の登場により、己の信念をさらに強く、揺るぎないものにしていった。
「実は、この少年が儀式に対して恐怖心を持っているようでな。愛の正装を拒んでいるのだ」
白天狗が事情を説明する。
「そうか。下界の者は、得てして『愛』を恐れているからな。無理もない」
赤天狗は甘いイケメンボイスで深く頷き、はじめを哀れむように見つめた。
「よし、わかった。今回は土俵に『柱』が必要だな」
「柱……?」
はじめの背筋に、冷たい悪寒が走る。
「ああ。そして赤、お前にも儀式への参加を頼む」
「承知した。愛の赴くままに」
白天狗の依頼に、赤天狗は意味深な笑み(お面の奥だが、確かにそう感じた)を浮かべて頷き、再び静かに部屋を出ていった。
白天狗ははじめに向き直り、ポンポンを揺らして言った。
「君の意思を尊重し、儀式の手順を少し変更する必要がある。……もう少ししたらまた呼びにくるから、ここで待っていてくれたまえ」
そう言い残し、白天狗も足早に部屋を出ていく。
残されたはじめは、レオタードの着用こそ免れたものの、赤天狗の言った『柱』という不吉な単語と、儀式そのものからはやはり逃れられないのだという絶望的な事実を前に、ただ深く項垂れるのだった。




