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大人の嗜みと、目覚めた調査員

ドンドン、ハッ! ドドンドンッ!!

ビジン林の奥深くに隠された天狗の集落。


その中央広場にはいくつもの大きな和太鼓が運び込まれ、屈強な天狗たちが威勢よく打ち鳴らしていた。


巨大なオベリスクの前には、いつの間にか土が盛られ、立派な『土俵』のようなものが設営されている。


「客人たちよ! 白天狗様からの使いで参りました!」


広場の隅で待機していたはじめたちの前に、一人の『子供の天狗』が小走りでやってきた。


儀式の準備が整ったことを知らせに来てくれたらしい。


しかし、その子供の格好を見て、はじめは再び絶句した。


顔には天狗のお面、胸には白いポンポン、そして腰には白いエナメルのビキニパンツ。


子供であっても、その変態的なドレスコードは健在だったのだ。


(英才教育すぎるだろ……)


はじめが遠い目をしていると、ふと一つの違和感に気がついた。


大人の天狗たちが全員履いていた『サイハイソックス』だけは、この子供は身につけておらず、素足を晒していたのだ。


(……まあいい。深く突っ込んだらまたロクな事にならない。そっとしておこう)


はじめが見て見ぬ振りを決め込もうとした、まさにその矢先だった。


「ねぇねぇ。なんで君は、あの長い靴下を履いてないの?」


カエデが、何の躊躇もなく、あっさりとその禁断の扉を開け放った。


「っ……お前なぁ!」


はじめが止める間もなく、子供の天狗はお面の奥でパァァッと目を輝かせ、誇らしげに胸を張って答えた。


「サイハイソックスは、一人前と認められた『大人の天狗』にのみ着用が許される、崇高なる嗜み(たしなみ)なのです! 僕も早く立派な大人になって、あの美しいソックスを身に付けたいんです!」


純粋無垢な少年の夢が、「白のサイハイソックスを履くこと」という狂気の事実。


はじめは頭を抱え、なんとも言えない、ただただ虚無と絶望に満ちた気持ちになった。


「へぇー。そっかー、大人の嗜みなんだー。頑張ってねー」


しかし、質問した張本人であるカエデは、一切のツッコミを入れることなく「ふーん」という感じで簡単に済ませてしまった。


(またか! また聞きにくい事を聞いておいて、そのリアクションで終わらせるのか!)


はじめが心の中で激しくツッコミを入れていると、その騒がしさに、カエデの背中におんぶされていたアリスが目を覚ました。


「んん……ゴホッ……。なんだい、外が随分と騒がしいね」


アリスが目を擦りながら顔を上げると、土俵の周りで熱気を帯び始めた変態集団の姿が視界に飛び込んできた。


何やら、只事ではない未知の『儀式』が始まりそうな予感。


キシアの優秀な調査員であるアリスの血が騒いだのか、彼女は「おや」と目を細め、懐から古びた手帳のような書物とペンを素早く取り出した。


「これは……キシアの未来のためにも、しっかりと記録しておかないとねぇ」


アリスは咳き込みながらも、どこか楽しそうにペンを走らせる準備を整えた。


そこへ、「待たせたな」という静かな声と共に、かつ兵衛の屋敷からクレアが出てきて一行と合流した。


その顔つきは、以前までのどこか影のある表情とは打って変わり、憑き物が落ちたようにスッキリと晴れやかだった。


「クレアさん、長老の話は終わったんですか?」


「ああ。……少し、肩の荷が下りた」


クレアは短く答え、ふっと穏やかに微笑んだ。


「さあ、白天狗様がお待ちです! こちらへ!」


子供の天狗の案内に従い、はじめ、マナ、カエデ、アリス、そして合流したクレアの一行は、オベリスクの横にある『白天狗の屋敷テント』へと向かって歩き出すのだった。

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