呪われた存在と、老いぼれた天狗
深い闇に包まれた玉座の間。
砕け散った水晶の破片を見下ろす半透明のアンナに対し、ERageの首領は憎悪に満ちた声を絞り出した。
「貴様は……どうやったら滅びるのだ?」
物理的な攻撃も、強大な魔力も一切通用しない絶対的な上位存在。
その理不尽なまでの力を持つアンナは、ふっと視線をそらし、どこか遠くを見るようにはぐらかした。
「さぁ……私の役目が終わるころ、かしら」
「忌々しい超越者めッ!!」
怒号と共に、ERageは再び尋常ではないほどのどす黒い魔力を右手に込め、全力の魔法攻撃をアンナへと放った。
しかし、空間を歪めるほどのその強烈な一撃も、水面に落ちた波紋のように、アンナの幻影をただ空しく素通りするだけだった。
「私も……そしてあなたも、呪われた存在なのかもしれないわね……」
アンナは自嘲するような、ひどく悲しげな顔で微かに笑った。
そして、その幽霊のような姿は、闇に溶け込むようにゆっくりと薄れ、完全に玉座の間から消え去っていった。
「…………ッ!!」
一人残されたERageは、拳から血が滲むほど強く握り締め、ギリッと激しい歯噛みをしてその場に立ち尽くしていた。
シーンは変わり、ビジン林の奥深くにある天狗の集落。
長老・かつ兵衛の屋敷の一室では、クレアが荒い息を吐きながら、ぐったりと床に仰向けに倒れ込んでいた。
「ハァッ……ハァッ……」
全身の筋肉が鉛のように重く、立っていることすらできないほどの強い疲労感。
しかし同時に、クレアの心はかつてないほどに澄み渡っていた。
まるで、何十年も続いた重く息苦しい『長い悪夢』から、ようやく目を覚ますことができたような、確かな解放感が全身を満たしている。
上座から静かにその様子を見下ろしていたかつ兵衛が、ことりと木の器に冷たい水を汲み、クレアの口元へと差し出した。
「ほれ、飲むがよい」
「っ……!」
クレアは弾かれたように身を起こし、その器に飛びつくようにして一気に水を飲み干した。
喉の奥を通る冷たい水が、干からびていた心身に染み渡っていく。
プハッと息を吐き、口元を手の甲で拭ったクレアは、少し呼吸を整えると、目の前に立つブルマ姿の長老の目をしっかりと見つめ返した。
数秒の、静かな沈黙。
やがて、クレアが重い口を開いた。
「……色々な事が起こって混乱しているが。あんな真似が出来るなんて……貴方は、一体何者なんだ?」
精神の深淵に潜り、ERageの呪縛の核をピンポイントで見つけ出して完全に破壊する。
それは、ただの魔術師や僧侶にできるような芸当ではない。
クレアの鋭く真剣な問いかけに対し、かつ兵衛はお面の奥でただ穏やかにニコニコと笑った。
「何、ただの老いぼれた天狗じゃよ」
それ以上の追及を躱すように、かつ兵衛が立ち上がる。
その時、屋敷の外――オベリスクのある広場の方から、ドンドンという太鼓の音や、野太い男たちの掛け声が騒がしく響き始めた。
「おや。どうやら、儀式の準備が整いつつあるようじゃな」
かつ兵衛が窓の外へ視線を向ける。
ビキニパンツの天狗たちが執り行う、ポータル解放のための『儀式』。
いよいよ未知の領域への扉が開かれようとする気配がした




