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長老の秘密と、因果のポータル

クレアが淀みなく、かつ冷静に事情を説明し終えると、はじめは彼女の背中に向かって「助かった、ありがとう」と小さく安堵の礼を告げた。


しかし、そんな張り詰めた交渉の空気を、カエデののんきな声が一瞬にしてぶち壊した。


「ねぇねぇ。男の人なのに、どうしてそんな可愛い声なの?」


「っ……!?」


はじめは心臓が止まるかと思った。


相手はブルマ姿とはいえ、この変態集団を束ねる長老である。


(コイツ……こんな恐れを知らない大物だったか!?)


はじめが心の中で戦慄してツッコミを入れていると、ふと隣の視線に気がついた。


見れば、マナがはじめの心を完全に読んだかのように腕を組み、真顔でウンウンと深く頷いていた。


だが、かつ兵衛はカエデの無遠慮な質問にも怒る様子を見せず、ニコニコと微笑んだまま答えた。


「ふむ。おそらく身体が小さかったせいか、声変わりを迎えることがなくてな。日頃の厳しい修練の結果として、この声を維持しているのかもしれん」


「へぇー、そうなんだー」


カエデはあっさりと納得し、それ以上掘り下げることなく会話を終了させた。


(いや、聞きにくい事を聞いておいて反応それだけかよ!!)


はじめが再び心の中で激しいツッコミを入れると、隣のマナがまたしても「それな」と言わんばかりに、ウンウンと力強く頷いていた。


「さて……」


かつ兵衛がコホンと(可憐な声で)咳払いをした。


「事情はわかった。だが、あのポータルを開くには、我々天狗の『儀式』が必要になるのだ」


かつ兵衛は控えていた白天狗に視線を向け、儀式の準備を進めるよう指示を出した。


白天狗は「ははっ、愛のままに!」と恭しく挨拶をし、はじめ達を連れて部屋を出ようとした。


「待て。そこのお前だけは、少し残れ」


かつ兵衛の可憐だが威厳のある声が、クレアだけを呼び止めた。


「……私か?」


クレアが訝しげに振り返る。


はじめ達は顔を見合わせたが、かつ兵衛の真っ直ぐな視線に押され、クレアを残して他のメンバーだけで部屋の外へと出ることになった。


(背中で眠っていたアリスは、ここでカエデが引き継いでおんぶしている)


白天狗の案内に従い、一行は集落の中央――巨大なオベリスクの足元へとやってきた。


オベリスクの裏手には、地面に複雑な魔法陣のような模様が刻まれた、古びた石造りの台座があった。


これがポータルらしい。


「この陣に、我々の愛のエネルギーを注ぐ事で、キシアへと通じる道が開くのだ」


白天狗がポータルを指差して語る。


しかし、はじめの顔は引きつっていた。


(あの変態天狗たちの『儀式』……。絶対に、嫌な予感しかしないぞ)


はじめはマナの耳元に顔を寄せ、声を潜めて耳打ちした。


「なあ。儀式とか絶対にロクな事にならない気がするんだけど。マナの神の力で、チャチャッとこのポータルを開けないか?」


マナは腕を組んで「うーん」としばらく考え込む素振りを見せた後、はじめの耳元で小声で囁き返した。


「ダメ。ここも『因果』でガチガチに固まってる。私にはムリ」


「また因果かよ!! いい加減にしろ!!」


はじめはついに堪えきれず、小声のままギリギリと歯ぎしりをして文句を言い返した。


都合の悪い時だけ発動する神のシステムへの不信感が限界突破しそうだった。


「――というわけなのだが、理解出来たか?」


はじめとマナがコソコソと口論している間に、どうやら白天狗は儀式の詳細について熱く説明していたらしかった。


全く聞いていなかったはじめはギクッとしたが、「聞いてませんでした」とも言えず、引きつった笑顔で「あ、ああ……バッチリだ」と適当な空返事をしてしまった。


「よし! それなら早速、儀式の準備といこう!」

白天狗は満足げに頷き、ポンポンを揺らして胸を張った。


「巣の連中にも伝えておく。準備が整うまで少し時間があるから、お前たちはしばらくしたら、ここに来てくれ」


白天狗はそう言うと、懐から一枚のメモを取り出し、はじめに手渡した。


そこには、集落の中にある『白天狗の家』らしき場所の地図が記されていた。


「愛の準備が整うのを、楽しみに待っていてくれたまえ!」


白天狗は優雅にターンを決めると、儀式の手配をするために足早に去っていった。


残されたメモを握りしめ、はじめはこれから巻き込まれるであろう未知の『儀式』への恐怖に、ただ一人震えるのだった。

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