愛の巣と、白天狗の集落
巨大な茄子のゴーレム・いらじを片手で軽々と頭上に担ぎ上げ、白いピンヒールで器用に岩場や獣道を歩く天狗。
そのシュールすぎる背中を追いかけながら、天狗の集落へと向かう道すがら、彼(?)は朗々と語り始めた。
「嘆かわしいことだ。
あの妖精たちは『愛』を恐れているのだろうか。
我々の美しき姿を見ると、いつも悲鳴を上げて逃げてしまうのだ……
この世に、愛ほど恐れる必要のないものなど何一つないというのに……」
(いや……恐ろしいのは『愛』じゃなくて、お前のその変態的な姿と存在そのものだよ……)
はじめは顔を引きつらせながら、心の中で全力のツッコミを入れた。
そんなドン引きしているはじめ達をよそに、カエデだけは意外なほど冷静に天狗の存在を受け入れていた。
恐怖するどころか、天狗の隣に並んで歩きながら何やら世間話に花を咲かせている。
「へぇー、そうなんだー。モグモグ……」
見れば、カエデは天狗から受け取った『毒々しい蛍光ピンク色をした木の実のような謎の食べ物』を、全く警戒することなく美味しそうに頬張っていた。
視線に気がついたカエデが、口の周りを汚しながら振り返る。
「ん? はじめちゃんもこれ、食べたいの?」
「いらねぇよ!! 絶対にいらない!!」
はじめは首がちぎれるほどの勢いで、全力で断った。
やはり、カエデの底なしの食欲と適応能力だけは、群を抜いて異常だった。
その後方では、アリスを背負って歩くクレアが、一人深く険しい顔で思案に暮れていた。
(あの男……一切の無駄がない歩法、そして先ほどの圧倒的なオーラ。次元が違いすぎる)
元ERageの幹部としての誇りや自信が、根底から揺らいでいた。
もし彼らが本当に敵に回った時、いざという時にはじめ達を守り切れるだろうか。
己の未熟さを痛感し、クレアは剣の柄を握る手にギュッと力を込めた。
そして、いつもなら一番騒がしいはずのマナも、なぜか今日ばかりはひどく大人しい。
この常軌を逸した「天狗」という変態の気圧に呑まれているのか、ただ無言でトテトテと後をついてきているだけだった。
クレアの背中では、すっかり体力を使い果たしたアリスが、規則正しい寝息を立てて眠っている。
天狗の案内でしばらく森の奥へと進んでいくと、突如として開けた広場に出た。
その中央には、天を突くような巨大な石造りの『オベリスク(記念碑)』がそびえ立っており、その周囲にはいくつものテントや木組みの家が立ち並び、何やら人々が生活している様子がうかがえた。
「さあ、着いたぞ。ここが我々の『愛の巣』だ」
天狗が両手を広げ、ひどく恥ずかしい、聞いているこちらが赤面しそうなセリフを堂々と言い放った。
どうやら彼らは、「愛」という単語に対して異常なほどの強いこだわりを持っているらしい。
一行がオベリスクの足元まで到着すると、天狗の仲間たちがワラワラとテントから出迎えてくれた。
「おお! 客人か!」「愛の導きだな!」
集まってきたのは、赤、青、黒、緑など、肌の色や装飾の色こそ違えど……全員がもれなく『ハイヒールにサイハイソックス、ビキニパンツにポンポン、そして天狗のお面』という、地獄のように変態的な外見をした筋骨隆々の男たちだった。
「うわぁ……」
はじめが思わず顔を覆いたくなるような光景の中、カエデだけは「こんにちはー!」と自然に手を振って挨拶を交わしている。
「おおっ、なんと愛のわかる、暖かみのある女の子だ!」
天狗たちはカエデのその素直な反応に大喜びし、彼女を特に強く熱烈に歓迎し始めた。
「静まれい、同胞たちよ」
はじめ達をここまで案内してくれた、白いビキニパンツの天狗が一歩前に出た。
彼の名は『白天狗』というらしい。
白天狗は頭上のいらじをドスンと地面に下ろすと、厳かな声で仲間たちに告げた。
「彼らは、愛のためにポータルを求めてやってきた。……この件、まずは長老に報告せねばなるまい」




