妙彦山の天狗と、夕暮れの変態
鬱蒼と茂るビジン林の奥へと歩を進めながら、案内役のフェイリが羽を揺らして解説を始めた。
「天狗というのは、精霊と人間を合わせたような、少し特殊な存在なんです。
本来は、このビジン林からほど近い『妙彦山』という霊山で、日々厳しい修行に明け暮れていたはずなんですが……」
フェイリは心底嫌そうな顔をして、ため息をついた。
「どういう理由なのか全く分かりませんが、少し前から突如としてビジン林に活動拠点を移し、こともあろうにあのポータル周辺で生活するようになってしまったんです」
「精霊と人間のハーフのようなものか。それがなぜ、ポータルを占拠など……」
クレアが顎に手を当てて考え込んでいると、密集していた木々が少しずつまばらになり、木立の隙間からキラキラと反射する青い海面が見えてきた。
潮の香りが、さらに一段と強くなる。
「海岸線にポータルがあるのか?」と尋ねるクレアに対し、フェイリは首を横に振った。
「いえ、ポータル自体は林のさらに奥ですが、このまま足場の悪い林を直進するよりも、一度海岸線に出た方が早くたどり着けるんです。ついてきてください」
フェイリの案内に従い、そのまましばらく進む一行。
やがて視界が完全に開け、海風が吹き抜ける切り立った崖のような岩場へと出た。
太陽が西の海へと沈みかけ、空と海を美しい茜色に染め上げている。
そんなドラマチックな夕日を背にして、崖の先端に『異様な人影』がポツンと立っていた。
ピーヒョロロ……♪
波音に混じって、どこからともなく、ひどく美しく物悲しい横笛の音色が響いてくる。
「……あれが、天狗です」
フェイリは、汚物でも見るかのようなかつてないほど嫌悪に満ちた顔で、その人影を指差した。
はじめたちが、フェイリの指差す先――夕日に照らされたその人物を凝視する。
そして、全員の思考が完全に停止した。
夕日を背に立つその男は、顔に立派な鼻の長い伝統的な『天狗のお面』を被り、優雅に横笛を奏でている。
しかし、問題は首から下だった。
岩場に立つ足元は、なぜかピンヒールの白いハイヒール。
その上には、絶対領域を主張する白レースのサイハイソックス。
腰に纏っているのは、ピッチピチのエナメルの白いビキニパンツのみ。
そして、岩山での厳しい修行の成果なのか、ギリシャ彫刻のように見事に鍛え上げられ、テカテカと光る筋骨隆々の肉体。
極めつけは、その分厚い大胸筋の先端――両の乳首の位置に、なぜかチアリーダーが使うような**『大きな白いポンポン』**が一つずつ、ご丁寧に貼り付けられていたのである。
「………………」
夕日の美しい情景。
哀愁漂う、見事な横笛の音色。
それらすべての情緒を粉微塵に破壊する、あまりにも圧倒的な『変態』のビジュアル。
マナが言っていた「ある意味で危険」という言葉の真意を、はじめたちは魂の底から理解した。
波の音と美しい笛の音色だけが響く中、はじめ、クレア、カエデ、そしていらじの中から顔を覗かせるアリスも含め、一同はただ口をポカンと開け、完全に呆気にとられて立ち尽くすことしかできなかった。




