おっさん女神と、ある意味で危険な天狗
「あー……やっぱり、この姿は魔力を使って疲れるから戻るわね」
マナがパチンッと指を鳴らすと、先ほどまでの神秘的で豊満な大人の姿は光と共に霧散し、いつもの舌足らずな子供の姿へとあっさり戻ってしまった。
「あ~、ダル……」
マナは自分の肩をグルグルと回しながら、まるで休日の昼間にゴロゴロしている中年のおじさんのような、ひどく所帯染みた声を漏らした。
そして、カエデの方をそっと見上げると、ノンデリおじさんが若い女の子に甘えるようなねっとりとした言い方で口を開いた。
「ねぇカエデちゃーん。この林、けっこう歩きにくそうだしぃ、私が歩けなくなったらおんぶしてねぇ……?」
「嫌です」
カエデは一切の感情を交えず、食い気味に即答した。
「ええーっ! イオリちゃんの時は、あんなに率先しておんぶして歩いてたのにぃ……!」
「あれは可愛いイオリちゃんだからいいんです。おっさんみたいな神様はお断りです」
「なによケチー!」
ブツブツと文句を言い合うマナとカエデ。
そのあまりにも威厳のない、俗っぽすぎる神様の日常のやり取りを目の当たりにして、先ほどまで地面に平伏していた妖精のフェイリ
あれ……私、とんでもない勘違いをして平伏してた……?と、完全にポツンと置いてけぼりを食らったような顔で固まっていた。
コホン、とクレアが咳払いをして場を仕切り直す。
「フェイリ。色々と驚いたかもしれないが、これがいつものマナだ。……それで、ポータルの事だが」
マナも気を取り直し、はじめたちに向き直った。
「えっとね、フェイリから聞いたんだけど。今、ポータルの付近を『天狗』っていう集団が不法占拠してるらしいのよ」
マナはフェイリから耳打ちされた『変態集団』という一番肝心なワードは、とりあえず伏せて皆に伝えた。
「天狗……キシアやクロベキアの兵士ではなく、妖怪の類か」
クレアが顎に手を当てて考え込む。
「とりあえず、どんな事情があって彼らがポータルを占拠しているのかも含めて、偵察する必要があるな。フェイリ、案内を頼めるか?」
フェイリは、クレアの言葉を聞いてひどく気乗りしない、露骨に嫌そうな顔をした。
しかし、横でマナが「お願いっ」と両手を合わせているのを見て、深く長いため息をついた。
「……マナ様の御使いとあらば、仕方ありません。ご案内します」
「助かる。……それで、相手は危険な存在なのか?」
クレアが斥候としての警戒を解かずに尋ねる。
「危険……では、ないです」
フェイリは明後日の方向を見ながら、激しく泳ぐ目線で言葉を濁した。
「……ある意味、ものすごく危険とは言えますけど……命を取られるような事はない、かと……」
「ある意味?」
「どういうことだよ……」
はじめやクレア、そしていらじの中にいるアリスも含め、真実(変態集団であること)を説明されていないメンバーたちは、フェイリのあまりにも歯切れの悪い回答に、どこか腑に落ちない微妙な表情を浮かべるしかなかった。
「と、とりあえず、百聞は一見に如かずです! 行きましょう!」
話を無理やり打ち切るように、フェイリが羽を広げて林の奥へと飛び立つ。
はじめたちは顔を見合わせながらも、フェイリの案内に従って、鬱蒼と茂るビジン林の奥深く――ポータルのある場所へと足を踏み入れていくのだった。




