眷属フェイリと、占拠する変態集団
鬱蒼と茂るビジン林の入り口。
巨大な樹上の枝から、射抜くような鋭い視線と共に弓を構える妖精の少女に対し、はじめは両手を軽く上げて敵意がないことを示した。
「待ってくれ。俺たちは怪しい者じゃない。少し事情があって、この林の奥に用があるんだ」
はじめは刺激しないよう、ゆっくりとした口調でここに至った経緯と、キシアへ渡る目的があることを手短に説明した。
妖精の少女は弓を引き絞ったまま油断なくはじめの話を聞いていたが、ふとその後ろに立つ子供の姿のマナに視線を移すと、ピクリと羽を揺らした。
(この微かに感じる魔力……まさか)
妖精は警戒を解ききれないながらも、一旦弓を下ろした。
そして、マナを真っ直ぐに見据えて問いかけた。
「……そこの幼い娘。あなたから、底知れない特別な気配を感じるわ。まさかとは思うけれど……あなたは『神』なの?」
「ふふん、その通りよ!」
マナは小さな胸をドンと叩き、堂々と答えた。
「私はこの世界を管理する女神、マナよ!」
しかし、妖精の少女は訝しげに目を細めた。
「女神マナ様……? 名前は聞いたことがあるけれど、こんな子供の姿だなんて。悪いけれど、言葉だけでは完全には信用できないわ」
「もう、仕方ないわねぇ。これを見せるのは魔力を使うから、あまり好きじゃないんだけど」
マナはやれやれと肩をすくめると、パチンッと指を鳴らした。
眩い光がマナの小さな体を包み込んだかと思うと、次の瞬間――そこには、神秘的なオーラを纏った、豊満なプロポーションを持つ『真の女神の姿』が顕現していた。圧倒的な神威と魔力が、森の空気をビリビリと震わせる。
「あっ……!」
妖精の少女は驚愕に目を見開き、手からポロリと弓を取り落とした。
その姿と、魂の底から畏怖を感じる魔力の波動。
それが本物の神である何よりの証拠だった。
妖精は慌てて枝から飛び降りると、地面にふわりと着地し、マナの御前で深くかしこまった態度をとって片膝をついた。
「こっ、これは……! 今までの数々の非礼、どうかお許しください!!」
少女は青ざめた顔で平伏し、震える声で名乗った。
「私は、マナ様の眷属である妖精の一族。名前をフェイリと申します……!」
「いいわよ、面を上げて。森の番人として立派に仕事をしてただけだもの」
マナは微笑み、フェイリを立たせると、本来の目的を告げた。
「フェイリ。実は私たち、この林の奥に封印されている『ポータル』を解放して、キシアに渡ろうと思っているの。案内してもらえるかしら?」
「ポータル……ですか」
その言葉を聞いた途端、フェイリの表情がサッと曇った。
「かつては、私たち妖精がマナ様の命でポータルの管理と封印を護っていたのですが……今はすっかり勝手が変わってしまいまして。
とある『よそ者』がポータルの付近に居座っていて、私たちもおいそれと近づけなくなってしまったのです」
「よそ者?」
大人の姿のマナが首を傾げる。
「そのよそ者って、一体誰なの? 魔物? それともキシアの兵士?」
フェイリははじめやクレアたちの視線を気にするように辺りをチラチラと見回した後、少し戸惑いながらマナの耳元へと近づいた。
そして、消え入るような小声で耳打ちした。
「実は……『天狗』と呼ばれる、どうしようもない変態集団が占拠しているのです……」
「…………え?」
神の御業で封印された、国境を繋ぐ厳かなポータル。
そこを占拠しているのが、恐ろしい魔物でも敵国の軍隊でもなく、『天狗という名の変態集団』。
マナは真顔のまま固まり、(それ、一体どういう反応をしたらいいの……?)と、心底困惑した表情で立ち尽くすしかなかった。




