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北の防潮林と、弓を構える妖精

野生のたぬきとの遭遇があったあの野営の夜から数日。


アリスの巧妙な偽造報告書と後任人事のおかげか、あるいはクレアの的確なルート選びのおかげか、その後は特に大きなトラブルや追手に見つかることもなく、一行は極めて順調に旅程を消化していた。


そして、村を出発してから6日目。


どこまでも続く平原を越えた一行の視界の先に、ついに巨大な緑の壁――『ビジン林』の広大な姿が確認できるようになった。


ビジン林は、クロベキアの最北部に位置する大規模な防潮林である。


天を突くほど背の高い屈強な樹木が何重にも密集して生い茂り、海から吹き付ける強風や塩害から内陸の土地を守る役割を果たしていた。


この広大な林を抜けた先には荒涼とした海が広がっており、その海のさらに向こう側に、敵国であるキシアの大地が横たわっているのだ。


ドスンドスンといらじの足音が響く中、林へ近づくにつれて、空気がわずかに湿り気を帯びてきた。


「潮風の香りだねぇ……ゴホッ」


いらじのコックピットの中で、アリスが懐かしそうに目を細めて呟く。


彼女にとっては、故郷の海へと繋がる匂いなのだろう。


やがて一行は、鬱蒼うっそうと木々が立ち並ぶビジン林の入り口へと到着した。


木漏れ日が差し込む静かな森の入り口で、クレアが歩みを止め、咥えていたタバコの火を携帯灰皿で消した。


「予定よりも少し早く着いたな。道中、これといった障害がなくて助かった」


クレアが荷物を下ろしながら周囲を見渡す。


「この広大な林のどこかに、キシアへと繋がるポータルが隠されているんだな……」


はじめは、薄暗く奥の深い森の入り口を見上げて息を吐いた。


ここから先は、マナの記憶と探索能力だけが頼りだ。


「よし。まずは私が斥候せっこうとして、林の中の安全を調べてみよう。罠や魔物が潜んでいるかもしれないからな」


元ERage幹部としての危機察知能力を活かすべく、クレアが自ら先陣を切ろうと一歩足を踏み出した、その瞬間だった。


『そこの不審者!! この林になんの用!!』


突然、頭上から高く澄んだ、しかし威圧感のある声が響き渡った。


「えっ!?」


「誰だ!?」


はじめたちが驚いて一斉に声のする方――入り口付近の巨大な樹上の枝へと視線を向ける。


『今すぐ立ち去るなら、危害は加えない! だが、これ以上踏み込むなら容赦はしないわよ!!』


木漏れ日を背にして高い枝の上に立っていたのは、人間の子供ほどの背丈に、背中には透き通るような美しい羽を生やした『妖精』のような存在だった。


その手には、はじめたちの心臓を正確に射抜くべく、ギリッと限界まで引き絞られた鋭い矢と弓が構えられている。


森の番人と思われるその妖精の鋭い眼光と、はじめたちの視線が、緊迫した空気の中で真っ直ぐにぶつかり合った。

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