表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/152

無能な後任と、野生のたぬき

ビジン林へと続く、のどかでどこか寂れた街道。


ドスドスと歩いていた巨大な茄子のゴーレム・いらじが不意に足を止めると、コックピットの中からアリスの青白い顔が覗いた。


「少し、いらじから降りたい……。ずっと揺られているのも、病弱な身にはこたえるんでね」


アリスの申し出により、一行は街道脇の邪魔にならない木陰で一旦休息をとることにした。


いらじのハッチから降りて軽く背伸びをしたアリスが、スッと左腕を虚空へ伸ばす。


すると、遠くの空から一直線に飛来した鷹のタッキーが、バサバサッと羽音を立ててその細い腕に見事に着地した。


タッキーの脚には、小さな筒状の文書のようなものが結びつけられている。


アリスはそれを受け取り、中身に素早く目を通すと、満足げに口角を上げた。


「フフッ……どうやら、上手くごまかせたようだね」


「鷹が戻ってくることが、事前にわかるのか?」


水筒の水を飲んでいたクレアが、不思議そうに尋ねた。


「あぁ。私とタッキーは『魔力の道』で繋がっていてね。離れていても簡単な意思疎通ができるのさ。


戦闘時にも、上空からの視界の共有や補助をしてくれる優秀な子だよ」


アリスは少し自慢げにタッキーの頭を撫でた。


「偽造報告書が通ったなら、まずは一安心だね」


アリスは懐から新しい羊皮紙と羽ペンを取り出し、いらじの装甲を下敷きにしてサラサラと何かを書き始めた。


「クロベキアでの私の『後任』を選んで、報告書を作成しているのさ。


……あんたたちの邪魔にならないよう、出来るだけ無能な奴を選んでおくよ。クックック……」


悪い顔で笑うアリス。


敵国の工作員が味方になると、これほど頼もしい(そしてタチの悪い)ことはない。


アリスは「本国に戻ったら隠居する」という旨も記載したその文書を再びタッキーの脚に持たせ、大きく腕を振ってキシアの空へと旅立たせた。


やがて日が落ち、あたりが深い夜の闇に包まれる頃。


一行は街道から少し外れた開けた場所で、野営キャンプの準備を整えていた。


パチパチとはぜる焚き火を囲み、クレアが手際よく作った温かいスープや保存食の肉を食べている時のことだ。


ガサッ……。


茂みが揺れ、美味しそうな匂いを嗅ぎつけて、一匹の『野生のたぬき』がヒョッコリと姿を現した。


「モグモグ……ん?」


分厚い肉を頬張っていたカエデの動きが止まる。


野生のたぬきも、カエデの姿を見てピタリと足を止めた。


焚き火の光に照らされながら、精霊狸であるカエデと、ただの野生のたぬきは、じっと無言のまましばらく見つめ合っていた。


やがて、野生のたぬきは「ここには自分の入る隙はない」と悟ったのか、名残惜しそうに肉の匂いを嗅ぎながら、クルッと背を向けて茂みの奥へと帰っていった。


「……なんか、懐かしい気持ちになったか?」


はじめが、たぬきの消えた茂みを見つめるカエデにそっと尋ねた。


「んー、そうだね。たしかに少し懐かしい気持ちにはなったけど……」


カエデは肉を飲み込み、カラッとした笑顔で首を横に振った。


「いまさら普通のたぬきの姿には戻れないし、気にしても仕方ないよー」


(おっ。普段はポンコツだけど、自分の運命を受け入れてるというか……意外と前向きで立派な考え方をしてるんだな)


はじめは、新しい生き方を選んだカエデの言葉に少し感心した。


しかし、カエデはそれに続けて、満面の笑みで言い放った。


「まぁ……私としては、毎日こうして安心して『食っちゃ寝』出来れば、姿なんてなんでもいいからね!」


「…………」


(やっぱり、ただの欲望に忠実な動物か……。一瞬でも感心して損した……)


はじめは即座に前言を撤回し、盛大なため息と共に虚無の表情でスープをすすった。


賑やかな食事が終わり、夜も更けていく。


「今夜は私が周囲を警戒する。お前たちは明日に備えて休んでおけ」


クレアがタバコに火をつけながら焚き火の番を引き受けた。


はじめたちはその言葉に甘え、テントや寝袋、夢の空間、あるいはいらじのコックピット(アリス)の中へと入り、静かな休息の眠りにつくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ