拉致の告白と、ビジン林のポータル
家の前にドスンドスンと鎮座した巨大な茄子のゴーレム・いらじ。
その胴体のハッチが開き、中から青白い顔をしたアリスがゆっくりと降りてくるのを、リフリッジは目を丸くして見つめていた。
「まだ使うこともあるかもしれないから、収納せずにそのまま置いておこうかね……」
アリスは独り言のように呟きながら、いらじの装甲をポンと叩いた。
そして、ふと視線を感じて振り返り、警戒心をむき出しにしているリフリッジとパチリと目が合った。
「こんにちは、お嬢ちゃん」
アリスが薄く笑って挨拶をする。
「こ、こんにちは……」
リフリッジは戸惑いながらも、なんとか挨拶を返した。
(一体お兄ちゃんは、この病弱そうな人とどういう経緯で知り合ったんだろう……?)
次から次へと見知らぬ訳ありの女性を連れて帰ってくる兄の行動力に、リフリッジは深いもの思いにふけるしかなかった。
シーンは変わり、はじめの家のリビング。
長旅の荷物を下ろし、全員がテーブルを囲むように集まっていた。
リフリッジはキッチンからお茶を運びながら、まるで不審者でも見るかのように、警戒した視線でアリスをチラチラと観察している。
その様子を横目で見ながら、カエデはズズーッとお茶をすすり、(またなんかキーキー騒ぎ出さないかなぁ……)と内心でニヤニヤと期待を膨らませていた。
しかし、次に飛び出したはじめの言葉は、そんな平和な空気を一変させるものだった。
「みんなに、話しておかなければならない事がある。……実は、俺の親父が、謎の男に拉致されているんだ」
「えっ……!?」
事情を知っているマナ以外の全員が、一斉に驚愕の声を上げた。
「親父から届いた手紙のホログラムで、仮面をつけた青年に剣を突きつけられている映像を見た。親父の命を助けたければ、3ヶ月以内に隣国のキシアにある『ニール鉱山』へ来いと要求されている」
重苦しい沈黙がリビングに降りた。
はじめは真剣な顔つきで皆を見回し、提案した。
「だから、なんとしてもキシアへ渡るための手段を、皆で考えたいんだ」
はじめは、元ERageの幹部として裏社会にも通じているクレアの方を見た。
しかし、クレアはタバコを灰皿に押し付け、首を横に振った。
「私一人ならともかく、これだけの複数人数、それもあんな巨大なゴーレムも含めて国境の警備を潜り抜け、密入国するのは物理的に無理だ」
再び、行き詰まるような沈黙が流れる。
少しの思案の後、はじめがハッとしてイオリを見た。
「そうだ、イオリ! お前が白龍の姿になって、みんなを背中に乗せて飛んでいくのはどうだ!?」
「あ、あの……それは……」
イオリは申し訳なさそうに眉を下げた。
「今のぼくの力だと、龍の姿はせいぜい『3分程度』しか維持できないんです……
それに、龍の一族はその地域の人々や土地を守らなければならない使命があるので、勝手に国境を越えて遠出する訳にはいかないんです」
空路も絶たれ、ますます手詰まりだなと一同が重いため息をついた、その時だった。
「あっ!!」
これまで静かに話を聞いていたマナが、突然ポンッと手を叩いて立ち上がった。
「そういえば、『ビジン林』に封印されたポータルがあるわ! それを使えばキシアに行ける!」
「ポータル? それはなんだ」
クレアが身を乗り出して聞き返す。
「キシアとクロベキアを、繋げてくれる魔法の入口よ! 昔のキシアとの戦争後に危険視されて封印されちゃって、今は誰も使っていないんだけども……私なら封印を解けるはず!」
マナが胸を張って答える。
「そうか……」
クレアは深く頷き、立ち上がった。
「なら、今はもうそのポータルに縋るしかないか。……善は急げだ。各自、ビジン林に向けて出発の準備を整えよう」
クレアの号令で、一気に場が慌ただしく動き始める。
話し合いの結果、土地を守る使命があるイオリは、この村に残って「お留守番(防衛)」をする事に決まった。
そんな深刻な会議を、リフリッジはただ黙って聞いているしかなかった。
父親の拉致というあまりにも重大な事件と、緊迫した空気。
さすがの彼女も、この状況で「ところで、そのアリスさんとはどういう関係なの!?」と割り込んで嫉妬を爆発させるわけにはいかない。
(お父さんが大変なのは分かったけど……でも……)
リフリッジはエプロンをギュッと握りしめ、少しモヤモヤした気持ちを胸の奥に押し込んだ。
(後で絶対、お兄ちゃんにアリスさんとどういう関係なのか、きっちり聞き出さなきゃ……!)
決意を秘めるリフリッジと、はじめ達は新たな目的地「ビジン林」へ向けて動き出す




