ERageの呪いと、神様のセクハラ
大部屋のベッドの一つでは、すっかり体力を使い果たしたイオリが、幸せそうな顔でスヤスヤと眠りについていた。
あまりにも激しい妄想を繰り広げすぎて、脳がショートしてしまったらしい。
「お兄様……むにゃむにゃ……えへへ……」
と、甘ったるい寝言を呟きながら、シーツをギュッと抱きしめている。
一方、隣の大部屋のベッドでは、カエデが青白い顔で横たわるアリスに対し、真剣な表情で両手をかざして治癒術を施していた。
しかし、カエデの額にはじっとりと汗が滲んでおり、一向にアリスの顔色が良くなる気配はない。
「どうなんだ? 様子は?」
腕を組んで見守っていたクレアが、心配そうに尋ねた。
「……よくないですね」
カエデは首を横に振った。
「呪いか何かがかけられているような……。私の治癒術が、患部を治す前にズルズルと吸い込まれていってる気がします」
「……だろうね。ゴホッ、ゴホッ」
ベッドに横たわったまま、アリスが弱々しく笑って返事をした。
「どういうことだ? 何か心当たりがあるのか?」
クレアが眉をひそめて問い詰めると、アリスは天井を見つめたまま、静かに告げた。
「私は……ERageに『呪い』をかけられているのさ」
「っ……!!」
クレアは奥歯を強く噛み締めた。かつて自分が所属し、自分自身も呪縛に囚われていた邪悪な組織。
(また、ERageの仕業か……!)
どこまで行っても逃れられないその組織の悪辣さに、クレアは激しい歯がゆさを感じて拳を握った。
「完全な治療は無理みたい。……一応、気分だけは良くなる術に切り替えてみるよ。それで、今日一日はゆっくり休んで」
カエデが魔力の質を変え、アリスの胸元へ穏やかな光を送り込む。
「すまないね……ゴホッ……」
アリスの呼吸が、少しだけ楽になったように見えた。
「アリス。その呪いの事は、我々にとっても非常に重要な事実だ。後で皆と情報を共有したい。詳しく話してもらえるか?」
クレアが真剣な声で問いかけたが、返事はない。
見ると、カエデの術で痛みが和らいだのか、アリスはすでに静かな寝息を立てて眠りに落ちていた。
シーンは変わり、真っ白なマナの夢の世界。
そこには二つのベッドが並べられており、はじめとマナがそれぞれ横になって体を休めていた。
マナは、なぜか豊満なプロポーションを持つ『大人の美女』の姿に戻っていたが、口から出る声は相変わらず舌足らずな子供のマナのままだった。
「それにしても、今日は色々あったわねー」
マナが大きな胸を揺らしながら寝返りを打つ。
「俺は、マナの言う『因果』とやらに振り回されて、金と労力をむしり取られただけだったけどな……」
隣のベッドで、はじめが少し不満げにジト目を向けた。
「あははっ! カエデちゃんは、すっかりイオリちゃんのお姉ちゃんみたいに怒ってたね」
「そうだな。あいつ、普段は適当なポンコツのくせに変なところだけ保護者ぶるからな」
はじめは苦笑しながら、現実の部屋で繰り広げられたカオスなやり取りを思い返した。
その時だった。
マナがふいに笑うのをやめ、ベッドの上に身を起こした。
そして、かつてないほど真剣で、厳かな声色ではじめに話しかけた。
「ねぇ、はじめちゃん。……そういえば、はじめちゃんに一つ聞いてみたい事があったんだけど」
「ん?」
「他の人がいる時だと、どうしても聞きづらい内容なんだ。……今、ちょっと聞いてみてもいい?」
マナの真摯な眼差し。
はじめは少し驚いた。(いつもふざけたような顔と態度をしているけど……こういう時は、やっぱり神様らしい、深い洞察や悩みを持った部分もあるんだな……)
「いいよ。どんな事だ?」
はじめは真面目な顔で頷き、彼女の深い問いかけを受け止める覚悟を決めた。
マナは、真剣な瞳ではじめを真っ直ぐに見つめ、こう聞いた。
「はじめちゃんって……もしかして、**ED(勃起不全)**なの?」
「………………」
はじめは、自分の全身からスゥーッと急速に力が抜け落ちていくのを感じた。
ベッドに沈み込むような、圧倒的な虚無感。
(バカだった……。こいつに神様らしい部分があると、一瞬でも信じた俺が……心底バカだった……!!)
はじめは激しい自己嫌悪に陥り、両手で顔を覆った。
「あれ? はじめちゃーん? もしもーし?」
返事をしないはじめの顔を、マナが不思議そうに覗き込んでくる。
ブチッ。
はじめの中で、我慢の限界を告げる糸が音を立てて切れた。
「お前なぁぁぁっ!! それ、ただのどぎついセクハラだぞ!!」
はじめはベッドから跳ね起き、顔を真っ赤にして激怒した。
「どいつもこいつも! 俺の事を性欲モンスターのケダモノ扱いしたり、コマシ野郎扱いしたり……挙句の果てに神様からはED扱いかよ!! いい加減にしろ!!」
「キャー! はじめちゃん、こわーい!」
マナは全く反省の色を見せず、豊満な体をくねらせながら、おちゃらけた声でケラケラと笑い転げていた。
疲労と怒りで胃を痛めるはじめの夜は、こうして騒がしく更けていくのだった。




