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部屋割りの攻防と、ケダモノの妄想

噴水広場でのリフリッジとの通信を終えたはじめは、再びホテルのフロントへと足を運び、恰幅の良いオーナーに宿泊の相談を持ちかけた。


「あー……実は今、うちのホテルは絶賛改装中でな。空いてるのが、少し大きめの多目的部屋が二つしかないんだ」


オーナーは頭をかきながら申し訳なさそうに言った。


「それに、いくらあんたが立派に扉を直してくれた恩人とはいえ、商売である以上、部屋の代金を完全にタダにはできない」


「ええ、それはもちろん分かっています」はじめが頷く。


「でも、期待通りの部屋を用意できなかったこちらにも落ち度があるからな。宿泊費は、3割引くらいならさせてもらうよ」


「助かります。それでお願いします」


こうして、無事に割引価格で二つの大部屋を確保し、交渉は成立した。


はじめが皆の待つ会議部屋へと戻ると、さっそく部屋割りの話し合いが始まった。


「私は、アリスちゃんの病気を治すために色々と協力するよー」


カエデが手を挙げて立候補した。


治癒の魔法や薬草の知識がある彼女なら適任だろう。


「じゃあ、何かあった時のために私もそっちの部屋で見ておこう」


クレアがタバコの灰を落としながら同調する。


「私はねー、自分の『夢の世界』に戻って寝るから、現実の部屋はいらないわ!」


子供の姿のマナは、ふんすっと胸を張って不参加を表明した。


それらの意見をまとめ、はじめは顎に手を当てて頷いた。


「となると……俺とイオリが同じ部屋。で、カエデ、アリス、クレアの三人が別の部屋だな。よし、これで決ま――」


「ダメ、絶対にダメ!!」


はじめが言い終わるよりも早く、カエデが猛烈な勢いで立ち上がり、親の仇でも見るような鋭い目で彼をギロリと睨みつけた。


「イオリちゃんの貞操が危ない!!」


「なんだよ……」


はじめは心外だとばかりに顔をしかめた。


「別に、カエデが思っているような、いかがわしい事なんか絶対にしないよ」


「ダメ! 男はそうやって、甘い言葉で女を騙すの!」


カエデは両手を広げてイオリを庇うように立ち塞がった。


「あのな、イオリは男だぞ……。頼むから、とりあえず落ち着けよ」


はじめはやれやれとため息をつきながら、根本的な事実を突きつけて冷静になるよう促した。


だが、完全にスイッチの入ってしまったカエデの耳には届かない。


「うるさい、このケダモノ!!」


カエデが容赦のない罵声を浴びせた。


――ピクッ。


その『ケダモノ』という魅惑的な単語に、背後に隠れていたイオリの耳が敏感に反応した。


(お兄様が……ケダモノ……っ!?)


イオリの脳内で、再び制御不能な妄想が爆発した。


深夜の薄暗い部屋。


月明かりに照らされ、なぜか上半身裸になったはじめが、強引にイオリを壁に押し付ける。


『……実はずっと、お前の事が好きだったんだよ』


耳元で囁かれる甘く低いはじめの声。


そしてそのまま、抵抗を許さない激しい行為へと雪崩れ込んでいく――。


「ふぇぇ……っ、あぁっ……」


脳内の過激すぎる映像に、イオリの顔は一瞬にして沸騰したように真っ赤に染まった。


完全にトリップした瞳は潤み、ハァハァと息遣いまでもが不自然に荒くなっている。


「ちょ、ちょっと! イオリちゃんの様子がおかしいわよ!?」


マナが慌てて割って入った。


「わかーった! はじめちゃんは、私が夢の世界に引き取って一緒に寝るから! それで文句ないでしょ!?」


「ケダモノ! はじめちゃんのケダモノォッ!」


「あぁっ……お兄様……っ、だめ、そんな激しく……っ」


マナの必死の仲裁も虚しく、カエデははじめに向かって叫び続け、イオリは自分の世界に入り込んで妄想の激しさに身をよじらせている。


「……やれやれ。ひどく賑やかな連中だね」


部屋の隅で、アリスが呆れ果てたように肩をすくめ、くすりと自嘲気味に笑った。


「すまないな……騒がしくて」


クレアは疲れたようにこめかみを押さえ、この新たな同行者に向かって深く詫びるしかなかった。

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