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いらじの不意打ちと、キシアの調査機関

ホテルの前で、アリスはスッと腕を天に向けて振り上げた。


止まっていた鷹のタッキーが鋭い鳴き声を上げ、空に向かって羽ばたいていく。


その飛翔速度は尋常ではなく、まるで弾丸のように高速で上空へと吸い込まれ、あっという間に見えなくなってしまった。


「さて……ホテルの部屋に入るのに、この大きなゴーレムは邪魔になるからね。収納するとしよう」


アリスが茄子のゴーレム・いらじに向かって手をかざし、収納術の魔力を練り始めた。


『ブウウウウウン……』


いらじが低く奇妙な唸り声を上げ、その巨大な体が少しずつ圧縮されるように小さくなっていく。


はじめは、その不思議な光景を無防備にぼんやりと眺めていた。


いらじの体が半分ほどの大きさまで縮んだ、その瞬間だった。


『ブゥン!!』


「えっ――」


突如として、いらじが猛烈な勢いではじめの死角から飛びかかり、丸太のような腕で思い切り殴りかかってきたのだ。


完全に不意をつかれたはじめの右頬に、重い拳がクリーンヒットする。


「ブブォッ!?」


カエルのようなひどく情けない声を上げ、はじめは勢いよく地面にすっ転んだ。


「あははははっ! はじめちゃん、変な声!!」


そのあまりにも見事な吹っ飛び方と情けない悲鳴を聞いて、カエデが腹を抱えて大笑いし始めた。


「痛ぇぇ……っ!」


はじめが涙目で腫れた頬を押さえて立ち上がると、アリスはわざとらしく「おや」と口元を押さえた。


「あぁ……いけない。誤作動したようだね……」


「誤作動でピンポイントに不意打ちされるなんて、そのゴーレムの安全性どうなってんだよ!!」


はじめが本気で怒鳴りつけると、アリスはクックックと肩を揺らして笑った。


「あぁ……どうやらこの子は、アンタの事が『大嫌い』なようだね。


それで、収納される時のわずかな魔力のブレを狙って、わざわざ攻撃したようだ……


次からは、収納する時はアンタを視界に入れないように気をつけるよ」


「嫌われてるってなんだよ、初対面だぞ……」


はじめが理不尽な暴力に理不尽な理由を重ねられてブツブツと文句を言っている間に、いらじは手のひらサイズまで小さくなり、アリスの空間収納魔法によって虚空へとスッと姿を消した。


カエデがいつも煎餅を取り出しているのと同じ、便利な四次元ポケットの術だろう。


シーンは変わり、ホテルの内部。


オーナーがタダで貸してくれたのは、殺風景ではあるが、全員が余裕で入れる少し広めの多目的ルームだった。


部屋の中央にアリスを正面に据え、はじめ、マナ、クレア、イオリ、カエデの五人が、それぞれ椅子に腰掛けて彼女を囲むように対峙している。


空調の微かな音だけが響く、静かで張り詰めた空気。


「さて、どこから話したものか……」


アリスは一つ咳き込んでから、ゆっくりと口を開いた。


「私の所属する『鷹茄子たかなす歴史研究所』は、隣国キシアからの調査機関さ。……我々の最大の目的は、このクロベキアの歴史調査」


そこでアリスは一度言葉を区切り、隣に座る豊満な美女の姿(今は子供の姿ではない)をしたマナを、冷たい瞳で真っ直ぐに見据えた。


「それと――そこの『女神マナ』を完全に封印するための、工作活動さ」

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