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三つ目の鍵と、タダの部屋

「ねぇ、どうしても一つ聞きたいんだけど」


マナが、眉をひそめて病弱な少女・アリスを見上げた。


「私のあの復元の魔法は、町全体を包み込む神の奇跡よ。何故、私の魔法の干渉を破って、あなた達だけが記憶を消されずに活動できたの?」


あの丘から双眼鏡で一部始終を観察し続けるなど、並の人間や魔法使いにできる芸当ではない。


アリスはゴホッと一度小さく咳き込むと、ニヤリと口角を上げて懐に手を入れた。


「フフッ……その答えは、コレさ」


アリスの細い指先に摘ままれて姿を現したのは、鈍い光を放つ重厚な金属の塊――はじめやマナが持っているものと酷似した、まごうことなき『鍵』だった。


「なるほど……それが答えか」


クレアが静かに呟き、納得したように目を細めた。世界を改変するほどの神の魔法であっても、この世界の大いなるシステムの一部である『鍵』の所持者に対しては、完全な干渉を弾かれてしまうのだろう。


「あんた達も、この鍵が欲しいんだろう?」


アリスは鍵を軽く放り投げ、再びキャッチして懐にしまった。


「私の『目的』に付き合ってくれれば、これをあんた達に渡しても構わないよ」


「……本当か?」はじめが身を乗り出した。


仮面の青年が「マナとはじめの鍵を渡せ」と要求してきた以上、この鍵はERageや神龍の一族に関わる決定的なアイテムであることに間違いない。


「あぁ。今はまだ鍵は渡せないけど……あんたらからそれなりの金(20000Excel)を受け取ったんだ。私について、ちょっとした話をしてやろう」


アリスはそう言って、大きな茄子のゴーレム・いらじの巨体に寄りかかり、少し息を整えた。


「まぁ……病弱な身としては、こんな路上での立ち話もなんだ。お前さんたちも、そこのホテルに用があるんだろう? そこでゆっくり話そうじゃないか」


「わかった。じゃあ、オーナーに扉の修理が完了したことを伝えてくる。それと、部屋を借りられないか話もつけてこよう」


はじめは頷き、アリスたちをその場に残して、一人でホテルの奥へと向かった。


「オーナー、扉の修理が終わりました。確認してもらえますか」


はじめに呼ばれて入り口にやってきた恰幅の良いオーナーは、枠にピッタリと収まった頑丈な真新しい扉を見て、目を丸くした。


イオリとの手作業と、マナが空間から出した完璧な寸法の素材のおかげで、以前の扉よりもはるかに立派で立て付けの良い仕上がりになっていたのだ。


「おお……! 素人仕事かと思いきや、大した腕前じゃないか。これなら文句のつけようがない」


オーナーは何度か扉を開け閉めし、満足げに大きく頷いた。


「それで、ご相談なんですが……少し込み入った話をするために、部屋を一部屋貸してもらえないでしょうか」


はじめが申し訳なさそうに切り出すと、オーナーは気前よくポンとはじめの肩を叩いた。


「話をするための部屋ぐらいなら、タダで貸しだそう! 扉のおかげでこっちも助かったんだ、ご苦労だったな!」


どうやら100Excelの誠意と確かな仕事ぶりが効いたらしい。


はじめは「ありがとうございます」と深く頭を下げ、安堵の息を吐きながら再びホテルの外へと戻った。


入り口の扉を開けて外に出ると。


夕暮れの風が吹く中、茄子のゴーレムを背にし、腕に鷹のタッキーを乗せたアリスが、はじめの帰りを待っていた。


その青白い顔には、これから始まる取引を楽しんでいるかのような、ひどく不敵な笑みが浮かんでいた。

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