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土地の記憶と、見つめる双眼鏡

エアリアルとの激闘の爪痕が痛々しく残る、隣町の廃墟。


瓦礫の山と化したその凄惨な光景を前にして、子供の姿のマナは呆れたように口を開いた。


「ずいぶん派手にやらかしたねぇ……」


「ご、ごめんなさい……悪気はなかったんです……」


その惨状の直接的な原因(白龍の力)を作ったイオリは、シュンと肩を落とし、スススッとカエデの背後に身を隠した。


「あれ?」


マナが不思議そうに目をパチクリとさせる。


「イオリちゃん、こういう時ははじめちゃんの後ろに隠れるのが普通だったのに……」


「そ、それは……リフリッジさんに悪いですから……」


イオリはモジモジとしながら言い訳を口にしたが、カエデの背中からチラチラと覗かせるその視線は、隠しきれない熱を帯びてはじめへと真っ直ぐに向けられていた。


「モグモグ……とりあえず、リフリッジちゃんはもうキーキー騒がないって事? あれはあれで見てて面白かったのに……」


のんきな声がしたかと思うと、カエデがまたしても空間収納から手のひらサイズの大きなお饅頭を取り出し、美味しそうに頬張っていた。


(今度はまんじゅうかよ……。あと、こいついっつもなんか食ってるな……)


無限に湧き出るおやつリストに、はじめは心の中で盛大なツッコミを入れた。


「ふっ……」


そんな平和すぎるやり取りを微笑ましく眺めながら、クレアが咥えタバコを揺らして本題を切り出した。


「それで、実際のところどうやってこの瓦礫の山を直すんだ?」


「えっとね、この町の『過去の記憶』から再構成するの」


マナは瓦礫の山を見渡しながら、神様らしい真剣な顔つきになった。


「どんな土地にも、そこに在った建物の形や人々の営みの記憶が深く刻まれているのよ。


神の力を持つ者は、その記憶を読み取って、時間を巻き戻すように形を復元する事ができるんだ」


そう言うと、マナはゆっくりと目を閉じ、小さな両手を胸の前で合わせて精神を深く集中させ始めた。


ゴゴゴゴゴ……。


マナの魔力が高まると同時に、晴れ渡っていた天空に、黄金色に輝く不思議な雲が渦を巻くように現れ出した。


そして、分厚い雲の隙間から、一直線の巨大な光の筋がマナの小さな体に向かって降り注ぐ。


「いくよ……っ!」


マナの姿が太陽のようにまばゆいほど強く発光した、その瞬間だった。


ズズズ……ッ! メキメキメキッ!


瓦礫の山が意思を持ったように動き出し、砕けたレンガや木材が宙を舞い、パズルのピースが組み合わさるように元の場所へと収まっていく。


まるで、町全体が地面からニョキニョキと生えてくるかのような、圧巻の光景だった。


さらに、空間の隙間に封印されていた町の人々も、光の粒子と共に次々とその場に姿を現した。


驚くべきことに、彼らは自分たちが一度封印され、町が破壊されたことなど微塵も気にしていない様子だった。


あの夜に起きた一連の恐ろしい出来事の記憶自体が、マナの力によって「初めからなかった事」として完全に上書きされているのだ。


「す、すごい……」


イオリが目を丸くし、カエデはお饅頭を食べる手すら止めてポカンと口を開けていた。


はじめとクレアも、文字通り「奇跡」としか言いようのない神の御業みわざに、ただただ息を呑むしかなかった。


数分後。完全に元の姿を取り戻した活気ある町の入り口で、マナは腰に手を当て、ふんすっと胸を張った。


「どぉ? すごいでしょ! もっと褒めていいわよ!」


ドヤ顔でアピールしてくるマナの頭を、はじめは苦笑しながら優しく撫でてやった。


誰もが、これで何事もなく復興し、平穏が戻ったのだと信じて疑わなかった。


しかし――


ここから遠く離れた小高い丘の上。


木々の影に身を潜め、町が復元されていく一部始終を『双眼鏡』を使ってじっと見届けている、見知らぬ何者かの姿があった。


その口元には、不敵で冷酷な笑みが浮かんでいた。

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