リフリッジの父オロチと、神々のネットワーク
「信仰心が足りません」という赤い警告が消え、スゥッと展開されたリフリッジの家系図。
黒く塗りつぶされていた『父親』の項目が、ついにその全貌を現した。
「……オロチ」
はじめは、空中に浮かび上がったその名前を静かに読み上げた。
項目にははっきりと、『龍族・男性』と記されている。
はじめとリフリッジの本当の母である「たまこ」と、龍族であるこのオロチとの間に、過去一体どういうドラマがあってリフリッジが産まれたのか……その経緯は全くの謎だった。
だが、仮面の青年が放った「神龍の一族」という言葉の線は、ここで間違いなく繋がった。
「うん……? これは……」
情報を目で追っていたはじめは、項目の隅に小さく記載されている一文を見つけて目を細めた。
【備考:超越者との繋がりあり】
「超越者……アンナのことか!?」
はじめは驚いて声を上げた。
イオリだけでなく、リフリッジの実の父親までもが、あのアンナと何らかの接点を持っていたというのか。
「そういえば……」
はじめはふと我に返り、空中に浮かぶ高度なシステム画面のような家系図を指差した。
「このデータベースみたいなのって、一体誰が調べてまとめてるんだ?」
マナは小さな胸を張り、得意げに答えた。
「オドの眷属の精霊たちよ。彼らが世界中の情報を集めて、こうして記録してるの」
「あー、オデね」
はじめは深く納得した。
(なるほど……あの腹の出た無精髭のおっさん(オデ)の部下たちが、せっせと汗水垂らして書類整理みたいに情報をまとめてるんだな……)
はじめの脳内では、中年の精霊たちが狭い部屋でパソコンに向かって残業している、ひどく所帯染みたビジョンが展開されていた。
「オドよ、オド!!」
マナが顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。
「もぅっ、はじめちゃん! さてはわざと間違えてるでしょ!」
「悪い悪い」と軽く手を挙げて謝るはじめに、マナはフンッと鼻を鳴らしてから、真面目な顔つきに戻った。
「私が直接この画面を作り出してアクセスすれば、外から干渉されたり情報を書き換えられたりすることはないからね。
神々って、案外こうやって自分の不得意な分野を連携し合って世界を管理していることがよくあるのよ」
マナは少しだけ大人びた、神様らしい優しい瞳ではじめを見上げた。
「どんなに強大な神様でも、一人では何も出来ない。……それは、はじめちゃんも覚えておいてね」
静かな白い空間に、その言葉がすっと染み込んでいく。
「……ちょっと、お説教くさくなっちゃったかな?」
マナが照れ隠しのように舌を出すと、はじめは小さく笑って首を振った。
「いや……昨日の夜中の、あの変な『あいうえお』の恋愛指南よりよっぽどいいよ。
子供の姿で知力が落ちてても、ちゃんとまともな事言えるんだな」
はじめが素直な感心を口にすると、マナはピキッと青筋を立てた。
「あのねぇ……! 人をアホの子みたいに……っ!」
マナが抗議の声を上げようとした、その瞬間だった。
パァァァッ……!
二人の足元から、眩い光が立ち昇り始めた。はじめの意識の輪郭が、再びぐにゃりと揺らぎ始める。
「あ、そろそろ時間ね。現実に戻るわよ」
光に包まれながら、マナが告げる。
はじめはゆっくりと目を閉じた。
オロチという龍族の父、超越者との繋がり、そして仮面の青年による親父の誘拐。
すべてのピースを抱えたまま、はじめたちの意識は真っ白な夢の世界から浮上し、再び元の現実の部屋へと帰還していくのだった。




