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エプロンの二人と、気味の悪い赤い封筒

翌朝。


はじめが目を覚ましてリビングへと向かうと、そこには昨日までの血みどろの修羅場が嘘のような、信じられないほど平和な光景が広がっていた。


「あ、お兄ちゃん! おはよう!」


「おはようございます、お兄様っ!」


キッチンに並んで立ち、仲良く朝食の手料理を作っていたのは、お揃いのような可愛らしいエプロン姿に身を包んだリフリッジとイオリだった。


マナの信者になった(そしてプロポーズの約束を手に入れた)ことで絶対的な心の余裕を手に入れたリフリッジは、イオリを「可愛い妹分」としてすっかり受け入れたらしい。


イオリもすっかり怯えをなくし、しっぽをパタパタと揺らしながら楽しそうにフライパンを握っている。


(親父はよく、『女の子が楽しく暮らす、こういう華やかな家庭にしたい』って言ってたなぁ……)


はじめは、二人の楽しそうな笑い声が響くキッチンを眺めながら、ふと遠方にいる父親の言葉を思い出し、口元を綻ばせた。


「おはよう、はじめ。朝から賑やかでいいわね」


そこへ、寝室から義理の母が顔を出した。


はじめとリフリッジにとっては、血の繋がりはないが大切な家族の一員だ。

「おはよう、母さん」


挨拶を交わすはじめだったが、義母の顔には少しだけ困惑の影が落ちていた。


「実はね、お父さんからの定期連絡が今朝届いたんだけど……その中に、こんな封筒が同封されていたのよ」


そう言って、義母ははじめに一通の封筒を手渡した。


それは、朝の爽やかな空気にはひどく不釣り合いな、血のように『真っ赤な封筒』だった。


「なんだ、これ……」


はじめが封筒を裏返すと、そこには父親の筆跡で、ひどく厳格な条件が箇条書きで記されていた。


一、 はじめだけが開封すること。


二、 開封する時、はじめ以外の人物が同席してもよいが、『秘密を守れる人』だけで開封すること。


三、 到着後、三ヶ月以内に必ず開封すること。


「なんだか……気味が悪いわね。お父さん、いつもはこんな冗談みたいなことしない人なのに」


義母が腕をさすりながら、心配そうに眉をひそめた。


「ああ……ちょっと後で、自分の部屋で読んでみるよ。心配しないで」


はじめは義母を安心させるように微笑み、真っ赤な封筒をそっと自分のポケットに滑り込ませた。


しかし、はじめの内心は穏やかではなかった。


封筒を受け取った瞬間、はじめは気付いてしまったのだ。


この紙片から、うっすらとだが、確かに『魔力』のようなものが放たれていることに。


(ただの手紙じゃない……。もしかして、あの鍵やERageに関係するものなのか?)


はじめは、ポケットの中の不気味な感触を確かめながら思考を巡らせた。


(誰に相談するべきだ……? クレアか? いや、ダメだ)


はじめは即座にその考えを打ち消した。


クレアは頼りになるが、彼女はまだERageの「水晶玉」の呪縛から完全に解放されたわけではない。


もしこの封筒が敵の罠や重要な機密であった場合、彼女の視覚や聴覚を通じて、玉座のERageに情報が筒抜けになってしまうリスクがある。


(カエデは口が軽そうだし、イオリはこういう事態には慣れていない。……となると、この中で安全に相談できそうなのは、マナだけか)


昨夜のセクハラおやじのような恋愛指南を思い出すと少し気が引けるが、魔法の知識と安全性において、あの神様に勝る者はいない。


「お兄ちゃん! ご飯できたよー!」


「すっごく美味しくできましたよ、お兄様!」


ダイニングテーブルには、色鮮やかで美味しそうな朝食が並べられ、クレアや目をこすりながら起きてきたカエデも席に着き始めていた。


「ほら、はじめも早く座りな。せっかくのお嬢ちゃんたちの手料理が冷めるぞ」


クレアが微笑みながらタバコを灰皿に押し付ける。


「あぁ、今行く」


カチャカチャと食器の鳴る音。


楽しそうな女の子たちの笑い声。


周りが温かく華やかな空気の中で楽しそうに朝食を食べている間、はじめだけはポケットの中の真っ赤な封筒の重みを感じながら、これからの事態に備えて静かに深い思索の海に沈んでいた。

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