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豹変する妹と、女神の「あいうえお」恋愛指南

はじめがリビングに戻ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「……えへへっ」


つい先ほどまでこの世の終わりのような顔をして、拳を白くなるまで握りしめていたリフリッジが、嘘のように上機嫌で微笑んでいるのだ。


彼女の周りには、目に見えるほどフワフワとしたピンク色の花畑のオーラが漂っていた。


「ひっ……!」


そのあまりの豹変ぶりに、カエデの隣で震えていたイオリは完全に怯えきっていた。


(今度はどんな恐ろしい事を言われるんだろう……)と、ビクビクしながらカエデの服の裾を強く握る。


しかし、リフリッジはイオリを睨みつけるどころか、聖母のように優しく穏やかな微笑みを向けて歩み寄った。


「今まで、怖がらせちゃってごめんなさいね。……もう大丈夫だから」


リフリッジはそう言うと、イオリの頭を優しくポンポンと撫でてあげた。


(えっ……? 本当に、信じていいの……?)


イオリは戸惑いながらも、恐る恐るリフリッジの顔を見上げた。


そこに先ほどの殺気は微塵もなく、心からの余裕と慈愛に満ちている。


許されたのだと確信したイオリは、ようやく張り詰めていた緊張が解け、すっかり落ち着きのある本来の表情を取り戻した。


少し離れた場所でその様子を眺めていたクレアは、ふぅとタバコの煙を吐き出した。


(突然『信者』とか言い出した時は何事かと思ったが……マナのやつ、上手くやってくれたようだな)


こうして、リビングを支配していた最大の修羅場は、神の奇跡(?)によって無事に解決へと導かれたのだった。


シーンは変わり、深夜。


皆がそれぞれの部屋や客間で寝静まった頃、はじめはふと目を覚まし、トイレへと向かった。


用を足して廊下に出たところで、ばったりと小さな影に遭遇する。


「……マナ?」


「しっ! 静かに……」


マナは口元に人差し指を立てると、しれっとはじめの背中を押し、彼と一緒にそのままはじめの部屋へと忍び込んだ。


部屋の扉を閉めると、マナはニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開いた。


「リフリッジちゃん、どうだった? 私は寝ちゃってて見てなかったけど、上手くいったでしょ?」


「……あぁ。まさか、俺の口からプロポーズみたいな事をするとは思わなかったよ。アレは、マナの仕業か?」


はじめがジト目で問い詰めると、マナはケラケラと笑って首を振った。


「違う違う! あれははじめちゃんの潜在意識の奥底に眠る『本心』みたいなものよ。


私はちょっとだけ、それを意識の上に引っ張り上げてあげただけ!」


神の力による潜在意識のブースト。


はじめはため息をつきつつも、それが自分の偽らざる本心の一部であったことは否定できなかった。


「あ、それでね。リフリッジちゃんはおそらくもう大丈夫だと思うけど……はじめちゃんは、これから先も新しく色んな女の子と関わっていくと思うの」


マナはふいに真顔になり、腕を組んで偉そうに頷いた。


「だから! このマナちゃんから特別に、女ゴコロを攻略するアドバイスを授けよう!」


(相変わらず、急に話を変えるよなぁ……)


はじめは内心で呆れたが、マナは「まぁいいからいいから」と咳払いをした。


「いい? 女ゴコロはね、**『あいうえお』**で攻略せよ、なの!」


マナは指を一本ずつ立てながら、滔々(とうとう)と語り始めた。


あ: 「愛してる」


い: 「いつもキミの事だけを考えてる」


う: 「嘘なんかキミにつくわけがない、信じてくれ」


え: 「永遠にキミのそばにいて守ってあげたい」


お: 「応援してる、キミがやりたいこと全部」


「――と、まぁこんな感じね。


あとは……これらの甘い言葉よりも、こまめに連絡したり、自分よりも優先してあげた方が実際は効果的なんだけどねー」


(マナは一体、何を言いたいんだ……? まだ寝ぼけてるのか?)


子供の姿をした神様が、深夜の男子の部屋で語るにはあまりにも生々しい恋愛テクニック。


はじめは完全に置いてけぼりを食らっていた。


「でもね、はじめちゃん」


マナは最後に、はじめの肩をポンと叩き、人生の酸いも甘いも噛み分けたような、ひどく遠い目をして言い放った。


「結局最後は、**セックス(ピー)**よ。とりあえずぶち込んどけば間違いないわ!」


「はぁっ!?」


自主規制の電子音ピーが幻聴として聞こえてきそうなほど、あまりにもド直球で身も蓋もない暴言。


(なんなんだよ……これじゃまるで、おじさんのモテテクニック解説じゃないか……!)


神聖な神の言葉など欠片もない、深夜のオヤジの飲み屋のような空気に包まれ、はじめはただただ困惑して立ち尽くすしかなかった。

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