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不思議な導きと、未来への約束

「リフリッジちゃん……はやく……もう……寝ちゃい……」


ひとしきり言いたいことを言い終わり、決意表明を聞き届けたマナは、そのまま糸が切れたようにコクリと首を垂れ、深い眠りに落ちてしまった。


「……仕方ないな」


はじめは小さく苦笑いすると、すぅすぅと平和な寝息を立てるマナをそっと抱き上げた。


とりあえず、自分の部屋のベッドへ運んで寝かせてやろうと歩き出す。


「待って」


その後ろから、リフリッジが弾かれたように声をかけた。


「マナちゃんは女の子だから……私の部屋のベッドの方がいいと思う」


「あ、ああ。そうだな、わかった」


はじめは頷き、進路をリフリッジの部屋へと変えた。


歩きながら、はじめの頭の片隅にふと小さな疑問が浮かんだ。


(そういえば……マナがよく夜中にふらっと現れる時があったけど、あいつはいつもどこで寝ていたんだ?)


客間で寝泊まりしているクレアの隣なのだろうか、とも思った。


確かに客間には余分な布団が置かれていたのを見たことはあるが、実際にマナがそこで眠っている姿を見たことは一度もない。


神様という存在の、少し不思議な生態についてぼんやりと考えを巡らせているうちに、リフリッジの部屋へと辿り着いた。


「ここに……」


はじめは、リフリッジのいい匂いがするベッドに、マナを慎重に寝かせた。


そして毛布をかけ、静かにその場を去ろうと背を向けた、その時だった。


「待って……!」


ギュッ、と。


はじめの服の袖が、強く引かれた。


振り返ると、リフリッジが俯き加減で袖を握りしめていた。


その顔はリンゴのように赤く染まり、ひどく緊張した面持ちで唇を震わせている。


はじめは、リフリッジと目線を合わせるようにゆっくりとしゃがみ込んだ。


その瞬間――はじめの中に、ふっと『何か』が降りてきた。


まるで、見えない不思議な力に背中を押され、促されているような奇妙な感覚。


今、どうしてもこの話を彼女にしておかなければならないという、強い確信めいた衝動が湧き上がってきたのだ。


「なぁ……リフリッジ」


はじめは、自分でも驚くほど穏やかで優しい顔になり、静かに問いかけた。


「リフリッジにとって、一番大事な人は誰なんだい?」


唐突な問いに、リフリッジはビクッと肩を揺らした。


しかし、彼女は逃げることなく、潤んだ瞳ではじめを真っ直ぐに見つめ返し、絞り出すように答えた。


「……お兄ちゃん、です」


顔を真っ赤にしながらも、その言葉には一切の迷いがなかった。


「そうか……」


はじめは、少しだけ意味深な、すべてを受け止めるような表情で静かに納得した。


「お兄ちゃんは……?」


リフリッジが、聞き返す。


その胸の鼓動は、服の上からでも分かるほど大きく高鳴っていた。


はじめは、不思議な感覚に身を委ねたまま、自分の心の中にある本当の気持ちをゆっくりと紡ぎ出した。


「正直に言うと……今は、誰が一番なのか、はっきりとは分からないんだ」


はじめの言葉に、リフリッジの肩がピクリと動く。


「今はまだ、それを決める時期じゃないのかもしれない。


俺の中には、まだ果たさなきゃいけない『秘められた大切な使命』があるように感じるんだ。


マナ達と出会って、色々な真実を知って……その思いが、特に大きくなったような気がする」


リフリッジは、何も言わずに潤んだ瞳ではじめの顔をじっと見つめている。


「期待通りの答えではなかったかな? すまない、リフリッジ……」


はじめは優しく微笑み、そして、決定的な言葉を告げた。


「だけども。俺が大人になって、家族を持つ決断をする時になって……その時に、俺の『一番』がリフリッジなら……」


ドクン、ドクン。


リフリッジは、心臓が破裂しそうなほどの音を立てているのを感じながら、息をするのも忘れて食い入るようにはじめを見つめていた。


「――結婚しよう」


静かな部屋に、その言葉が確かに響いた。


数秒の空白。


そして、リフリッジの脳内で凄まじい大爆発が起きた。


(アレ!? コレってプロポーズだよね!? 絶対そうだよね!?)


リフリッジは顔から火を噴きそうなほど真っ赤になり、完全にパニックに陥った。


(マナちゃんの信者になった途端、さっそくご利益が来たの!? 神様すごすぎる!!)


「マナちゃん、ありがとう……! マナちゃん、ありがとうっ!!」


リフリッジは、ベッドでスヤスヤと眠るマナに向かって土下座するような勢いでひれ伏し、歓喜の涙をボロボロと流しながら何度も何度も叫び始めた。


「……えっ?」


その瞬間。はじめに取り憑いていた不思議な感覚が、ふっと霧のように抜け落ちた。


(俺は今、何を……?)


はじめは自分の口から出た言葉の重さに後から気づき、呆然とした。


そして、自分が放った強烈な爆弾発言によって、眠っている神様にむかって大号泣しながら感謝を叫び続けている妹の姿を、まるで現実感のない不思議な感覚でただ見下ろしていたのだった。

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