神様のお財布事情と、魔法の耳打ち
「……え?」
涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、リフリッジはぽかんと口を開けた。
「信者って……。普通、こういう時は『お友達になって』とかじゃないの……?」
その真っ当すぎる疑問に対し、子供の姿のマナは、さも当然といった顔で首を横に振った。
「いやぁ、だって『お友達』はお金とか利益にならないし……」
(マナさん、一体何を言っているのですか……!?)
はじめは内心で激しく動揺し、声も出せずに金魚のように口をパクパクと開閉させた。
さっきまでの感動的でシリアスな空気を、まさか神様本人が「利益」という生々しいワードで粉砕するとは思わなかったのだ。
「うん? どしたの、はじめちゃん。口パクパクさせて、何か言いたいの?」
マナが不思議そうに首を傾げた。
「いや……っ!」
ショックからなんとか立ち直ったはじめが、勢いよくツッコミを入れる。
「さすがに、泣いてる子を前にして『金にならない』とかそういう本音はあんまりだろ!」
すると、横で話を聞いていたカエデが、バリボリと煎餅をかじりながらあっけらかんと口を挟んだ。
「いやー、でも実際そんなもんだし。世の中ギブアンドテイクだよ」
(人の心ってもんがないのか……いや、こいつタヌキだから元からないのか……)
はじめは頭を抱え、心の中で虚しく自問自答した。
はじめの激しいツッコミを受けて、マナは「うーん」と小さな顎に手を当てた。
「説明を端折りすぎたかな? とにかく、誤解のないように詳しく説明するね」
「だったら最初からそうしてくれよ!」
マナが説明するには、こうだ。
神であるマナの力の源は、人々の『信仰心』である。
しかし現在、クロベキアではキシアからの激しい弾圧があり、マナへの信仰自体が風前の灯火となっている。
今、彼女の力をギリギリで支えているのは、迫害を逃れて隠れて祈りを捧げている一部の高齢者たちだけだという。
「それでね、日常生活で『特に深く悩んで、困っている人』からの信仰心は、すごく強い力になるの。
だから、リフリッジちゃんの深い悩みを私が解決してあげて、その見返りに強大な信仰力をゲットしたかったってわけ!」
マナは隠し立てすることもなく、清々しいほどのドヤ顔で語った。
「……それなら、最初から『悩みを解決してあげる』って言えばいいのに。
なんであんな悪徳商法みたいな誘い方したんだよ」
はじめが呆れ返ってため息をつくと、マナは急にゴシゴシと目を擦り始めた。
「ごめんねー。私、今すごく知力が落ちてるから、順序立てて長い説明をするのが大変なんだ。
……ふぁぁ。今説明しただけで、すっごく眠くなってきたし……」
確かに、マナの顔は限界を迎えた子供のようにトロンとしており、今にも立ったまま寝てしまいそうだった。
「あー、もう眠い! 時間がないから手短に説明するね。リフリッジちゃん、こっち来て!」
マナが手招きをする。
今までのあまりにも俗っぽい神様の話を聞いて、納得したような、していないような、なんとも言えない微妙な表情を浮かべていたリフリッジだったが、静かに立ち上がり、マナに向かって歩き出した。
「リフリッジちゃん、はやくはやく! もう寝ちゃいそう!」
急かすマナの前にリフリッジが屈み込むと、マナは小さな両手でリフリッジの耳元を覆い、何かをコソコソと『耳打ち』した。
何を言われたのか、はじめたちには全く聞こえなかった。
しかし、その言葉を聞いた瞬間。
「……っ!!」
リフリッジの瞳にパァンッ!と強烈な光が宿った。
彼女はバネ仕掛けのように背筋をまっすぐにピンと伸ばし、興奮で頬を真っ赤に染め上げながら、部屋中に響くような大声で宣言したのだ。
「なります!! 私、絶対にマナちゃんの信者になります!!」
つい数分前まで見捨てられたような顔で泣きじゃくっていた少女の、あまりにも劇的で現金な決意表明だった。




