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母への思いと、突然の勧誘

家の中へと戻った一行を待ち受けていたのは、胃が痛くなるほど重苦しいリビングの空気だった。


部屋の隅で壁に寄りかかりながら、クレアは静かにタバコの煙を細く吐き出した。


(やれやれ……)


修羅場と化したリビングの惨状を眺めながら、クレアは心の中でため息をつく。


(さすがにこれ以上こじらせるようなら、時と場合によっては私が介入するしかないか……)


そう思いつつも、今はまだ口を出さずに様子を見ることにした。


テーブルの席についたリフリッジは、誰とも目を合わせようとせず、ただじっと膝の上で俯いていた。


その両手は、全身の力のすべてを込めているかのように固く、固く握りしめられており、拳の関節が真っ白に変色している。


「……ねぇ」


震える、絞り出すような声だった。


リフリッジは俯いたまま、カエデの背後に隠れてガタガタと震えているイオリに向かって問いかけた。


「さっき……『お兄様』って言ったけど。あなた、お兄ちゃんとどういう関係なの?」


その問いを発した瞬間、リフリッジの頭の中には、幼い頃に別れた『本当の母親』との僅かな思い出がフラッシュバックしていた。


リフリッジの心の中で、ひとつの飛躍した、しかし彼女にとっては切実な想像が膨らんでしまっていたのだ。


(この子は……お母さんの、新しい子供なの?)


胸の奥が、ギリギリと締め付けられる。


(もしそうなら、どうして……どうしてお母さんは、今まで私たちを迎えに来てくれなかったの?)


寂しさ、怒り、嫉妬、そして見捨てられたという絶望。


色々な感情がまぜこぜになり、リフリッジの小さな胸のキャパシティを完全に超え、今にも激しく爆発しそうになっていた。


「あ、あの……それは……」


イオリがオドオドと弁明しようと口を開きかけた、その時だった。


「うぅ……っ、うわぁぁぁぁんっ……!!」


限界を迎えたリフリッジの目から大粒の涙が溢れ出し、彼女は子供のように声を上げて泣き出してしまったのだ。


(これは……私の出番かもしれないね)


張り詰めた糸が切れたリフリッジを見て、クレアが壁から背中を離し、間に入ろうと足を踏み出した。


しかし。


スッ、とクレアの前に細い腕が伸び、その前進を遮った。


子供の姿に戻ったマナだった。


マナは、普段のふざけた様子は微塵もない、ひどく真剣で静かな顔つきで首を横に振り、クレアを無言で制止した。


リビングに、リフリッジの泣き声だけが響き渡る。


カエデがそっとリフリッジの隣に座り、「よしよし、辛かったねぇ」と優しくその小さな背中を撫で続けていた。


はじめも何も言えず、ただ痛ましそうに妹を見守っている。


やがて、ひとしきり泣いて感情を吐き出したリフリッジの嗚咽が、少しずつ落ち着いてきた頃。


マナがゆっくりと歩み寄り、泣きはらしたリフリッジの肩に、そっと自分の小さな手を置いた。


そして、女神は極めて真剣な表情のまま、彼女の目を真っ直ぐに見つめてこう言った。


「リフリッジちゃん。……私の『信者』になってくれる?」


「…………え?」


静まり返ったリビング。


マナのあまりにも唐突なその発言に、はじめ、クレア、カエデ、そしてイオリを含めたその場にいる全員が、ポカーンと口を開けた。


(今……なんと?)


涙で濡れたリフリッジの顔にも、悲しみを上書きするほどの純粋な「あっけにとられた」表情が浮かんでいた。

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