暴走する妄想と、退屈しない道中
カエデは空間収納魔法から取り出した大きな醤油煎餅をバリボリと齧りながら、前方を歩くはじめの背中をジト目で見つめた。
「うーん……頼れるお兄ちゃんって感じじゃないなぁ……」
カエデが忌憚のない評価を下す横で、イオリは両手を胸の前で組み、食い入るようにはじめの後ろ姿を見つめていた。
「ねぇ、イオリちゃんははじめちゃんのどこがいいの?」
ボリボリ、バリッ。
カエデが遠慮なく大きな咀嚼音を響かせながら尋ねるが、イオリからの返事はない。
煎餅を噛み砕く音が大きすぎてカエデの質問が聞こえなかったのか、それともはじめの姿に夢中になりすぎているのか、イオリの意識は完全に別の次元へと飛んでしまっていた。
(はじめさんを、お兄ちゃんって呼べる仲になったら……)
イオリの頭の中では、目まぐるしい勢いで乙女(?)の妄想が爆発的に繰り広げられていた。
(腕を組んで一緒にどこかにお出かけしたり……一緒のベッドで仲良く添い寝したり……一緒にお風呂に入ったり……それから、それからぁっ……!)
イオリの脳内劇場は、ただの兄妹という一線を軽々と飛び越えていた。
完全に「仲のよい男女の深く熱い関係」のようなシチュエーションをひたすら妄想し、その顔はみるみるうちに茹でダコのように真っ赤に沸騰していく。
「あれー? イオリちゃーん?」
完全に上の空になって返事をしなくなったイオリの様子が面白かったので、マナが「ちょっとどんなこと考えてるか覗いちゃろ」と軽いイタズラ心を起こした。
女神の力を使って、こっそりとイオリの精神に同調した、その時だった。
(あんなことや……こんなことまで……っ!)
激しい男女関係のような、あまりにもディープすぎる場面を妄想しだしたイオリの脳内映像が、ダイレクトにマナの頭の中に流れ込んできた。
「ち、ちょっと待ったぁぁっ!! ストップ、ストップゥッ!!」
突如、マナが顔を真っ赤にして大声で叫び始めた。
突然叫び出したマナを見て、カエデは「なんのこっちゃ?」と不思議そうな顔をした。
そして、またしても虚空の収納スペースからヒョイッと自分の水筒を取り出し、ズズーッとのんびりお茶を飲み始めた。
「イ、イオリちゃん! お兄ちゃんって、兄弟って、そういう関係じゃないから! 絶対に違うからね!?」
マナは羞恥で顔を真っ赤に染め上げながら、必死にイオリの妄想を全力で否定した。
「ふぇぇ……っ!?」
自分の頭の中のあんな恥ずかしい妄想を、よりによって神様に見透かされていたと悟ったイオリ。
顔から火を噴きそうなほど限界まで赤面し、両手で顔を覆うと、その場にコロンと恥ずかしそうにうずくまってしまった。
少し離れた場所で、魔物を警戒しながら紫煙をくゆらせていたクレアは、その後方で繰り広げられているカオスな一部始終を見て、思わず肩を揺らした。
「くくっ……まったく。この子達といると退屈しなくて済むから、本当に楽しいよ」
クレアは可笑しくてたまらないといった様子で、必死に笑いをこらえながら呟いた。
はじめが魔物と戦う緊張感あふれる前線とは裏腹に、後方支援(?)の少女たちの周りには、底抜けに平和で騒がしい空気が漂い続けていた。




