腕試しの志願と、見守る視線
エアリアルによって破壊された町の復興。
イオリのその切実な願いを聞いて、子供の姿に戻ったマナは「うーん」と少し考えるような素振りを見せた。
「そうだねぇ……。でも、とりあえずはじめちゃんのお家に先に戻ろっか? きっと今頃、リフリッジちゃんも帰りが遅くてすっごく心配してるだろうし」
マナの提案に、はじめもハッとして頷いた。
リフリッジには「しばらく待っていてくれ」と伝えたきりだ。
夢の世界での時間経過がどうなっているかは分からないが、無事に帰還した姿を早く見せて安心させてやりたかった。
「出発するかい?」
クレアが、タバコの火を細めてマナに尋ねる。
その後ろの草むらでは、カエデがまだ「すぅ……すぅ……」と平和な寝息を立てて、丸まったまま幸せそうに眠っていた。
「うん! じゃあ、マナちゃんがはじめちゃんのお家まで、安全な道を案内してあげるねぇ……」
マナが意気揚々と先頭に立って歩き出そうとした、その時だった。
「待ってくれ」
はじめが一歩前に出て、マナを制止した。
「え?」
「少しでも戦闘経験を積んでおきたいんだ。
それに、いざという時にあの『鍵』を迷わず使いこなせるようになっておきたい」
はじめは、自らの胸元で鈍い光を放つ鍵をしっかりと握りしめた。
「だから、ここから家までの道中は……俺に任せて欲しい」
その声には、今までのような迷いや頼りなさはなかった。
もう誰かの後ろに隠れて守られるだけの自分から脱却したいという、真っ直ぐで強い意志が込められていた。
クレアは静かに腕を組み、口角をわずかに上げてはじめの背中を見つめた。
(ほぅ……言うようになったね、ぼうや)
心の中でそう呟く彼女の瞳には、教え子の成長を喜ぶような、確かな頼もしさが浮かんでいた。
一方、その後ろでは、イオリの純白のしっぽが千切れんばかりにパタパタと左右に激しく振れていた。
(またはじめさんのかっこいい活躍が見られる……!)
顔を真っ赤に染め上げ、期待に満ちた熱い視線を無防備にはじめの背中へと送っている。
そのイオリの分かりやすすぎる乙女(?)な反応と、やる気に満ちたはじめの姿を交互に見比べながら、マナは自分の小さな顎を手で撫でた。
「ほうほう……」
マナは何か妙な納得をしたように、ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべてはじめを見つめている。
はじめの無自覚なタラシっぷりが、またしても見事に発揮されていると確信した目だった。
そんな三者三様の視線が交差する、静かな北ウォー沼の朝。
「ふぁ~あ……っ。よく寝たぁ……」
草むらの奥から、ようやくのんびりとした大きな欠伸の声が響いた。
目をゴシゴシと擦りながら、カエデがのっそりと起き上がってきたのだった。




