目覚めの視線と、復興のお願い
夢の世界と現実を隔てていた光がゆっくりと薄れ、はじめは重い上体を起こしてまぶたを開けた。
そこは白一色の空間ではなく、湿った土の匂いと朝靄に包まれた現実の北ウォー沼、その最奥にある祠の前だった。
「あっ……」
視界が鮮明になると、すぐ目の前で、心配そうな顔をしたイオリが食い入るようにはじめの顔を覗き込んでいた。
その近すぎる距離感に、はじめはふと今朝の出来事を思い出す。
(あれ……これ、リフリッジの時みたいだな)
妹にヨダレを垂らされながら見下ろされていた強烈な寝起きがフラッシュバックし、はじめは心の中でそっと苦笑した。
そして、逃げることもせず、ただ無言でじっとイオリの大きな瞳を見つめ返してみた。
「ひゃっ!?」
至近距離で真っ直ぐに見つめ合ってしまったことに気づいたイオリは、ボンッと音が鳴りそうなほど顔を赤面させ、「プイッ」と勢いよく後ろを向いてしまった。
しかし、顔は逸らしても感情は全く隠しきれていない。
フリルのスカートから伸びる純白のしっぽが、パニックを起こした犬のように左右にフリフリと慌てて振れている。
(……なんだかんだで、ちょっとかわいいな)
中身が男の子だと分かっていても、はじめはその素直すぎる小動物のような反応を微笑ましく思った。
「ふぁ~あ……っ」
その時、のんびりとした大きな欠伸の声が響いた。
「やっと出れたよー!」
はじめのすぐ隣で伸びをしていたのは、夢の世界での豊満な美女の姿から一転、すっかり元の小さな子供の姿に戻ったマナだった。
どうやら、無事に現実の空間へと帰還を果たせたらしい。
周囲を見渡すと、祠の裏手の草むらでは、カエデが「むにゃむにゃ……」とまだ気持ちよさそうに丸まって眠っていた。
一方、すでに目を覚まして静かに紫煙をくゆらせているクレアがいた。彼女はいつも通り、誰よりも早く起きて一服する余裕を見せている。
そっぽを向いていたイオリが、恐る恐る肩越しにはじめの方を盗み見た。
はじめが嫌な顔一つせず、いつもと変わらない穏やかな空気でいるのを確認すると、イオリはホッと胸を撫で下ろし、少しだけ安心したような柔らかい表情になった。
(良かった……はじめさんに、嫌われたわけじゃないみたい……)
イオリは心の中で小さく呟き、安堵の息を漏らした。
そして、イオリは表情を引き締めると、はじめのそばでまだ眠そうに目をこすっているマナへと向き直った。
「あの、マナ様……お願いがあります」
「ん~? なぁに、イオリちゃん?」
「エアリアルとの戦いで、隣の町がぐちゃぐちゃに壊れてしまいました……。
あの町の復興を、どうかお願いできないでしょうか?」
朝の静寂に包まれた北ウォー沼で、白龍の真摯な願いが響く。




