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素人は黙っとれと、精霊狸の回想

マナとカエデのちょっとした口喧嘩がようやくおさまり、白い空間に再び落ち着きが戻ってきた頃。


はじめは、ふと思い立ったようにカエデに質問を投げかけた。


「なぁ、カエデ。イオリは、アンナとの間に『超越者』としての特別なエピソードがあったみたいだけど……


ずっとアンナと行動を共にしてたカエデからは、そういう不思議な話や凄いエピソードを一度も聞いた事がないよな?


何か知ってる事があったら教えてくれよ」


カエデは「うーん」と腕を組み、頭の獣耳をピクピクと動かしてしばらく考え込んでいた。やがて、ポンッと手を打つ。


「思い出した……! あれは、まだ私がただのタヌキだった頃。


お山のドングリがひどい不作でな……」


遠い目をして語り始めたカエデの言葉を遮るように、はじめは恐る恐るスッと手をあげた。


「あの……アンナとドングリに、なんの関係が……?」


すると、カエデはふっと不敵で得意げな顔つきになり、はじめをビシッと指差した。


「素人は黙っとれ。ここから話が盛り上がるんじゃ」


「あっハイ」


妙に年季の入った説教くさい口調と謎の自信に押され、はじめは大人しく引き下がり、話の続きを聞く事にした。


カエデが語るには、こうだ。


ドングリが不作でひもじい思いをして山を彷徨っていた時、アンナは不思議な光を放つ『金の玉』を持ちながら、精霊狸ポン吉の力を解放できる特別なタヌキを探し回っていたらしい。


空腹で行き倒れかけていたカエデをアンナが見つけると、持っていた金の玉が激しく反応した。


アンナは「この子が継承者に違いない!」と歓喜し、カエデを拾い上げて南ウォー沼の仮の住まいへと連れ帰ったのだという。


「アンナはね、すごく難しい顔をして私に言ったの。『精霊狸の対となる存在、精霊狐が復活してしまった。その力がERageに悪用されている懸念がある』って」


「精霊狐……? お前と対になる精霊が、敵側にいるってことか?」


クレアが興味深そうに目を細めた。


「うん。だから、精霊狸の真の力を解放してもらうために、しばらく私と一緒に暮らして欲しいって頼まれたの。


それに、アンナはあの凶悪な『4号』の気配を感じて南ウォー沼に拠点を作ったみたいなんだけど……


結局、上手くおびき寄せる事が出来なかったみたいで」


カエデの口から、世界の危機に関わる重要なキーワードが次々と飛び出してくる。


はじめたちは固唾を呑んで、その続きを待った。


「それで? 他にはアンナはなんて言ってたんだ?」


はじめが身を乗り出すと、カエデは「うーん」と再び腕を組んで天井を見上げた。


「他にもなんか色々と重要な事があったと思うんだけども……


アンナが作ってくれた、おいも料理がすっごく美味しかった事ぐらいしか思い出せないんだよねぇ……」


「えぇ……」


はじめはずっこけそうになった。世界の命運より食い気が勝る、カエデらしいと言えばカエデらしいオチだった。


「まぁでも、イオリちゃんが『超越者』って言うぐらいなんだから、アンナちゃんとはまた絶対に再会できるでしょ!」


カエデはあっけらかんと笑い、全く心配する素振りも見せない。


その脳天気な笑顔を見ながら、はじめはふと過去の出来事を振り返っていた。


(そういえば……あの『金の玉』が消滅した時は、カエデのやつ、この世の終わりみたいに大泣きして取り乱してたよな。


でも、肝心のアンナが光になって消えちゃった時は、そこまで悲しんでなかったような……)


恩人との別れよりも、アイテムの喪失を悲しんでいたカエデ。


(意外と薄情なところがあるのか……? それとも、動物の感覚ってのはそういうものなのか……)


はじめがジト目でカエデを観察し、真剣に考え込んでいると。


当のカエデは、不思議そうに首を傾げながら、


(なんか深刻に考えることあった?)


とでも言いたげな、ぽかんとした無邪気な表情ではじめを見つめ返していたのだった。

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