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収納スペースと、デリカシーのない精霊狸

「あの……マナ様」


イオリは涙目でモジモジとしながら、豊満な美女の姿をしたマナを見上げた。


「ぼくが白龍の姿に戻って全力で力を使えば、この空間の呪縛を解除することはできると思います。


でも……この空間に、ぼくの巨大な体が入るだけの『収納スペース』があるのでしょうか?」


そのひどく控えめな質問に、マナは呆れたように肩をすくめた。


「ここは私の夢の世界なんだから、広さなんてどうにでもなるわよ。


……っていうか『収納スペース』って。荷物やモノじゃないんだから。


相変わらず自己肯定感が低いのね」


「ひっ……!」


マナの鋭いツッコミにビクッとしたイオリは、またしても脱兎のごとくはじめの背後へと逃げ込み、その服の袖をギュッと力強く掴んだ。


しかし――。


今までの「ただ怯えて隠れている」だけの姿とは、明らかに気配が違っていた。


背中にしがみつく手つきや、チラリと見せる上目遣い。


そこには、怯えを口実に意中の相手にくっつく口実を見つけたような、どこか「ラッキーチャンス!」と思っているような甘い空気が漂っていたのだ。


自分の本当の名前イオリを知り、しかも過去に心を救ってくれたはじめに対して、自己アピールしたい、もっと甘えたいという欲求が完全にダダ漏れになってしまっている。


そのあざとすぎる態度を見逃さない者がいた。


「……イオリちゃん。そういうのはダメだよ」


カエデが、いつものほんわかした笑顔を消し、少しだけ厳しい声でピシャリと注意した。


「はじめちゃんをそういう世界に引き込んじゃダメ。


ただでさえ多感な時期なのに、男の子の性癖に歪みが出たら大変なんだから!」


「ぷっ……くくくっ!」


カエデのあまりにもド直球な説教を聞いて、黙ってタバコを弄っていたクレアが堪えきれずに吹き出した。


「いいじゃないか、微笑ましい行為だ。そんなに目くじら立てて怒らなくても」


「ダメです!」


からかうクレアに対し、カエデはむんっと胸を張って言い返した。


「男女の関係はしっかりしないと。男同士の恋愛とかは、心が歪みます!」


悪気なく、ただ純粋な一般論として放たれたカエデのその一言は、イオリの乙女(?)心に致命的な一撃を与えた。


「うぇぇぇぇんっ!! ごめんなさいぃぃ……っ!! ぼくが、ぼくが男の子でごめんなさいぃぃぃっ!」


イオリははじめの背中に顔を擦り付けながら、再び大粒の涙をこぼして泣き出してしまった。


強大な龍の力を持ちながら、そのメンタルは羽毛よりも脆かった。


「あーあ……」


その惨状を見て、マナが心底呆れたようにため息をついた。


「カエデちゃんは、本当にデリカシーがないんだから。

言葉選びってもんがあるでしょ」


「むっ! 私は間違ったこと言ってないですよ!」


「正論なら何でも言っていいわけじゃないのよ! ほら、イオリちゃん泣いちゃったじゃない!」


白い空間の真ん中で、泣きじゃくるイオリを背負ったはじめを置き去りにして、マナとカエデのちょっとした口喧嘩が始まってしまった。


脱出という本来の目的はどこへやら、神の精神世界は今日もカオスな日常の空気に包まれていた。

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